隠れた名著

  

 

 

その5

  

クロード・ガニョン著

『ニコラ・フラメル探求 : 付 - 象形寓意図の書(註解版)』

Claude Gagnon,

Nicolas Flamel sous investigation : suivi de l'edition annote

du Livre des figures hieroglyphiques.

Le loup de Gouttiere, Quebec, 1994.

301pp.  Index なし  ISBN 2-921310-24-4  Price : ****

 

    著者は、モントリオール大学での博士論文 (1975年) から一貫して、『象形寓意図の書』(1612年) で名高い伝説上の (14世紀末から15世紀始め) 中世パリの錬金術師ニコラ・フラメルに勢力を注いで研究を続けている人です。いわゆる文献学的な手法で伝説の「でっち上げ」のメカニズムを探っています。ニコラ・フラメルは、フランスの錬金術の歴史の中では、ベルナルトゥス・トレヴィザヌスと並んで最も有名であり、数多くの著作が帰されています。そのフラメル文書の核を為すのが、本邦でも翻訳紹介されている『象形寓意図の書』です。
    本書は、その後パリに拠点を移して高等大学院での1988年の学位論文がやっと公刊されたものです。その大意は、フラメルの作とされる『象形寓意図の書』が16世紀末〜17世紀初めの偽作であり、その作者は、別項で紹介したフランソワ・スクレの著作でも浮き彫りにされていたキリスト教カバラ主義者ギヨーム・ポステルの学派出身のベロアルド・ド・ヴェルヴィルではないかと言う点です。
    そもそも謎解きのきっかけは、『象形寓意図の書』を1612年にフランス語へ翻訳・出版をしたとされるピエール・アルノーという人物の実在性がほとんど無いことが分かったことでした。架空の翻訳家によってフランス語にされて17世紀の始めに出版されたと言うことは、ほぼその頃この著作がフラメルの偽作として書かれたのではないかと言う仮説を生みます。(もちろんオリジナルであるようなラテン語やユダヤ語の著作などありません)。次のステップは、その後ガニョン氏の指導教官となる Guy Beaujouan 氏が、1973年に『象形寓意図の書』の中で展開される錬金作業の処方の幾つかが、実は16世紀末の出版された有名な中世錬金術の古典を集めた選集『キミアと呼ばれる黄金作成の技』からそっくりそのまま抜き出されていることを発見したのです。
    さらに、錬金プロセスの各処方を『キミアと呼ばれる黄金作成の技』や他の同時期に出版された同様な選集に徹底的にあたったガニョン氏は、『象形寓意図の書』がほぼ間違い無く17世紀始めの作であると結論を導きます。そして、今度は一体誰がこの偽作を作り得たかという問題に突き進みます。『象形寓意図の書』の特徴は、その偽ユダヤ的なフレーヴァ-をかもし出すディティールです。偽ユダヤ的と言うことは、キリスト教カバラ的ということです。当時のパリで有名だったカバラ主義者の中から、その著作傾向や語彙・文体から Beroalde de Verville に目星をつけたガニョン氏は、全精力を注いで証拠集めに奔走します。

 
 Investigation sur un faux
 偽作に対しての検分
 
    Introduction    p. 6-
    イントロダクション
  
    Pierre Arnauld sieur de la Chevallerie poictevin, traducteur
        introuvable    p. 12-
    シュヴァルリー公ピエール・アルノー、見つけられない翻訳者
   
    Barthelemy Mercier de Saint-Leger, bibliothecaire erudite
        p. 26-
    バルテレミー・メルシエ・ド・サン・レジェ、博識な司書
  
    Francois Beroalde de Verville, ecrivain cabaliste    p. 50-
    フランソワ・ベロアルド・ド・ヴェルヴィル、カバラ主義著作家
 
        Alchimie et cabale dans l'oeuvre de Beroalde    p. 52-
        ベルアルドの著作における錬金術とカバラ
 
            Le "Recueil steganographique" et l'avertissmemet "Aux
            beaux esprits qui arresteront leurs yeux"   p. 54-
            ステガノグラフィック選集と『目を引く素晴らしい精神者』
            への警告
 
            Le voyage des "Princes fortunez"    p. 65-
            幸運な王子の旅
 
        Le cas du "Moyen de parvenir"    p. 71-
      『到達するための方法』の場合     
 
    Petrus Perna, imprimeur a Bale    p. 88-
    バーゼルの印刷業者ペトルス・ペルナ
 
    Nicolas Flamel, paroissien de Saint-Jacques-la-Boucherie a Paris
        p. 109-
    ニコラ・フラメル、パリの聖ジャック・ラ・ブシュリーの教区
 
        Le testament    p. 110-
        遺言
 
        L'arche    p. 125-
        アーチ
 
        Le "Livre d'Abraham le juif"    p. 156-
        『ユダヤ人アブラハムの書』
 
    Conclusion    p. 172-
    結論
 
 Edition annotee du "Livre des figures hieroglyphiques
  『象形寓意図の書』註解版
 
    Notes sur les editions anterieures    p. 182-
    それまでの諸版に対するノート
 
    Editions annotee    p. 187-
    註解版テクスト
 
    Appendices    p. 269-
    補遺
 
    Bibliographie    p. 277-
    文献リスト

 
 

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