ごくごく個人的な「本」日記
2015年2月
2015. 2. 28 土
ついに、『知のミクロコスモス』についての最初の書評が出ました!宗教史の鶴岡さんによるものです。とても素晴らしい一本を、どうもありがとうございました!どなたでも、こちらからダウンロードできます。
共編者にあのチャールズ・バーネット氏を迎えた、占星術・反占星術についてのウォリック会議からの国際論集には、去年の11月にシカゴのアメリカ科学史学会で発表した菊地原君とのコラボ企画「パラケルススにおける梅毒、性愛、想像力」を論文化して寄稿する方向です。ボイルの全集をだしたりして科学史の出版に力をいれている英国の
Pickering & Chatto 書店から出版される予定です。乞う、ご期待!
次号のメルマガをドロップしました。5年前からトニー計画として地下潜行して進めてきた A・グラフトン著
『テクストの擁護者たち』 の邦訳版は、ついに今年8月の中旬に勁草書房のBH叢書から発売が予定されています。近代ヨーロッパにおける人文諸学の起源を描きだす、このとても豊かで悩ましいほどに複雑な書物を読み解くためのガイドが、今回のメルマガです。本が出版されるまで、これを読んで気持ちを高めてくださいね!3月2日の配信です。
2015. 2. 27 金
いま開催しているセミナー 『人間とコスモス:古代から近代までの哲学・科学・宗教』
では、ここまで古代の異教世界のセネカ、キリスト教教父のアウグスティヌス、中世神学者のペトルス・ロンバルドゥスをとりあげて、3回ほど行いました。たんなる哲学史でもないし、宗教史でもありません。現代の学問区分では分類できないような、人間と神や摂理との関係についてとしか表現できない不思議な知の領域を扱っています。
自分でいうのも変なのですが、これはとても面白い試みであるような気がします。歴史の流れを体感できますし、各回の話が相互に絡みあいながらタペストリーを編んでいくような感じです。しっかりした台本にそって話を進めているわけではないので、あとで同じ話をするのも難しいのですが、これは動画か録音で記録しておかないともったいないなと思うようになりました。
世界観に興味あるというアダム君がセミナーの内容を気に入ってくれるのはわかるのですが、ここ2回ほど参加した同僚の博論生エレナが、ランチのときにしみじみとした顔で「セミナーがすごく良い」といってくれたのは嬉しかったです。とても雰囲気の良いクラスなので、おそらく他の学生も同様に感じているのではないかと思います。
なお、これから開始する初心者向けのセミナー 「『科学革命』を読む」
の方は、参加者の募集を締め切ったあとも問い合わせが殺到しています。学ぶ機会というのは大事なので、多くの人が享受できる対策を考えたいと思います。本当は、日本の大学がロジスティックを提供してくれるのが理想です。世界中に散らばる人材を登用してインターネットをつかった授業やセミナーをし、受講者も単位がとれるようにするなど、ですね。スーパー・グローバルとかいっているなら、そういうことをすればいいのです。語学学校の外国人講師に英語の授業を委託するとか、安易な道に走るのではなくて。
2015. 2. 26 木
ラリー(プリンチーぺ)の
『科学革命』
の邦訳版をつかって、初心者向けのセミナーをウェブ上で開催しようと思っています。ペースは、月に1〜2回、地理的な制限はありません。参加は無料です。ハングアウトをつかいますが、ストリーミング放映する予定はありません。興味のある方は、ご連絡ください。>
好評につき、あっという間に満員になってしまいました。出遅れた方、ごめんなさい。第1回目は、3月10日の火曜日の20時からです!
去年の6月にウォリック大学でおこなわれたワークショップをもとにした占星術についての論集へ寄稿の依頼がきました。チャールズ・バーネット氏が編者として入るようです。今は忙しいのですけれど、締め切りはすぐではないようなので、受けるかも知れません。やはり、昨夏の集中講義で説明したとおり、占星術のビッグ・ウェーブがきてますね。
2015. 2. 25 水
オランダへの移動日です。めずらしいことですが、晴天で気持ちがいいですね。電車のなかで、明日のセミナーの教材に目をとおしました。副教材の方は前に読んであります。アダムとイヴや天国の創造の話なのですが、伝統のキリスト教的なコスモスにおける女性の位置づけなど、普段とは違うディスカッションが展開されるかもしれません。
以前からここで書いているように、占星術の歴史についての大型の国際会議をオランダのユトレヒト大学でおこないます。開催日の3月19-20日が近づいてきたので、告知がウェブ上にでました。前夜の18日にダレルの一般講演もあります。
ある学生さんに春休みの課題として、ラリーの『科学革命』の原著をあげたのですが、早速にも読んでいるようです。読みやすい英語ですが、思ったよりもスピードがある感じですね。
2015. 2. 24 火
朝起きたら、第2著作で議論した informare のことが話題になっていました。ご指摘された BH 内の記述も四方に散っていたので、ちょっと整理しました。アヴィセンナやアヴェロエスの著作をアラビア語からラテン語に訳した人々は、formare と informare
を明確に区別していなかった印象をもっていますが、中世スコラ学では区別が生まれ、さらに forma informans と forma assistens
の話が出てくるので複雑です。コンセンサスがあったわけではなく、著者によって使い方はマチマチかなという感じもします。物理的な身体の形成には formare
が使われ、知的な次元が加わるような場合、「霊魂が身体を infomare
する」と表現されます。これは、あきらかに形成の意味ではないでしょう。
ルネサンス期では、形成力が身体を formare
した後に霊魂が informare
するというシェキウスの議論にゼンネルトは反応しているので、それまでの使用法とは微妙に違う気もします。ゼンネルトは informare
を animare
と換言しているので、ヒントとなるでしょう。ライプニッツはどの流れで使っているのでしょうか?池田さんのもたれた感触のとおり、ゼンネルトのものに近いかなと想像します。
第5章からはじめた要約づくりは、第6章を土曜日に、第7章と第8章を日曜日に、そして第9章を昨日につくることがきでました。序章から第4章までは福西さんにお願いしていたのですが、この調子なら僕がさらに幾つかできると思います。> 今日は第4章の要約をつくることにしました。しかし、要約というのは、翻訳とも自作の執筆とも違った次元の作業ですよね。著者の意図に逆らわずに、内容を手短にプレゼンするというのは難しいです。>
勢いが出てきたのか、そのまま序章の要約もつくってしまいました。あと残るは、福西さんにお願いしてある第3章の要約のみです。
ラッキーなことに、今週はセミナーの準備がはかどっていたので、今日までトニー本の作業に時間を割くことができました。
2015. 2. 23 月
スプリンガー書店の担当者に『ルネサンス哲学辞典』の記事へのアクセスの仕方を教えてもらいました。菊地原君とのコラボ企画の記事を PDF 版で入手しましたので、まずは「徴の理論」の記事をアカデミアにアップしておきました。こちらからダウンロードしてください。時間をおいて「梅毒」の記事もアップします。
これらの記事は、菊地原君の『パラケルススと魔術的ルネサンス』から生まれた副産物です。まずは夏休みに下原稿をつくってもらい、今年の1月に集中的な作業をして、2月の末にオンライン出版という流れでした。お疲れさまでした!>
面白いのは、普通の科学者たちが閲覧する辞典類と同じプラットフォーム内にあるので、たとえば梅毒という語で検索すると、医学・科学の記事も並んでヒットします。われわれの記事も将来、そのような出版物のなかで言及されるようになるかもしれません。
3月末にベルリンで開催されるルネサンス学会のために、航空券と電車の券を入手しました。エア・ベルリンを使うので格安です。東京・大阪間の新幹線より安いでしょう。今回は、先週の訪問で利便性を確認できたデュッセルドルフの空港を使ってみます。新幹線で乗り換えなしで行けるところが良い感じです。自分用のメモとして、旅程をあげておきます。
3月26日 木
リェージュ 10:14-12:01 デュッセルドルフ (新幹線)
デュッセルドルフ 15:05-16:05 ベルリン
(飛行機)
3月29日 日
ベルリン 12:55-14:05 デュッセルドルフ
(飛行機)
デュッセルドルフ 15:50-17:25 リェージュ
(新幹線)
2015. 2. 22 日
先にここに書いてしまうことで、自分にノルマを課したいと思います。今日は、トニー本の第7章と第8章の要約をつくります。>
なんとか、やりました。なかなか苦しい作業ではあります。明日は、第9章の要約をつくりますと宣言して、外堀を埋めております。
2015. 2. 21 土
パリのクリストフが企画・製作したマルセイユのタロットについてのドキュメンタリー番組が、フランスの国営テレヴィ局
ARTE で水曜日の夜に放映されたのですが、同じものが YouTube
にもアップされたようで、早速のところ見てみました。なかなか、よく出来ています。立派です。画家ボッティチェリ、哲学者フィチーノ、そしてタロットの関係はどうなっているのでしょうか?欧州各地を取材した美しい映像を背景に、一流の研究者たちが語ります。放映は仏語版ですが、英語版の DVD も送ってくれました。
ずっとセミナーのことに気持ちを向けているので、なかなか集中できなくて苦労したのですが、トニー本の第6章の要約をつくりました。この作業、本当にツライものがあります。
『ルネサンス哲学辞典』に寄稿した菊地原君とのコラボ企画である「徴の理論」と「梅毒」の記事が、ついにオンライン出版されたようです。編者であるのに、どうやって記事の全体にアクセスできるのか知りません。出版社の担当者に聞いてみます。
2015. 2. 20 金
シルヴァン(マトン)の新作の PDF をもらったので、早速のところベルギーに帰る電車のなかで読みました。なんとかして早いうちに実物も手に入れようとしているので、詳しくはそれが到着してから書きたいと思っていますが、これはなかなか力作です。シルヴァンも僕の感想を待っていたようで、それを伝えると、ものの5分もしないうちに反応してきました。彼としては、これを中心とした論集をつくりたいようです。僕にも一本書けといってきました。とても興味ぶかいプロジェクトですが、僕には時間の余裕がないことと、シルヴァンの本のシリーズはほとんど誰の目にもつかないオブスキュアなものなので、なかなか躊躇します。自由の身だったら、やりますよ。
2015. 2. 19 木
今日の僕のセミナー『人間とコスモス:古代から近代までの哲学・科学・宗教』では、聖アウグスティヌスによる占星術についての議論を足がかりに、古代ローマ帝国のなかで育ちつつあったキリスト教的な世界観にせまります。星辰や天使の役割、占星術をはじめとする予見・占いの意味、人間の自由意思の問題などについて議論します。
エリザベスが『ルネサンス哲学辞典』に寄稿した「根源的湿気」についての記事は、ついにオンライン出版されたようです。彼女が最終版を提出したのは先週の水曜日でした。菊地原君とのコラボ企画である「徴の理論」と「梅毒」の記事は、昨日になって提出したので出版は来週になるかもしれませんね。> つづいて、エリザベスのもうひとつの記事「生得温熱」もオンライン出版されました。
2015. 2. 18 水
どうも、移動と明日のセミナーの準備のために落ちついて作業できません。
昨日ここに書いた要約の件、幾人かの意見を聞きつつ担当の方とも相談しました。僕の当初の提案よりは具体的にしますが、路線としてはネタバレで読者を興覚めさせない、ほどよいチラリズムということになりました。ちなみに、第5章については、こんな感じです:
第五章では、太古のエジプトで成立し、古典古代より前の時代にギリシア語に翻訳されたと信じられていた『ヘルメス文書』が、じつは後代の偽書だと暴かれた経緯に焦点が当てられる。文献学の歴史では、一大事件と考えられてきたものだ。この物語の主人公カゾボンは、第四章でスポット・ライトを当てられたスカリゲルの友人で、一七世紀の初頭に宗教戦争の吹き荒れる故国フランスを逃れて英国王の庇護のもとで活動した厳格なカルヴァン主義者だ。
同時代人たちから第一級のギリシア学者と評されていたカゾボンは、とくに聖書や初期ギリシア教父の著作群に強い関心をもっていた。その彼が、『ヘルメス文書』に対峙することになった動機はなんだったのだろうか。当時の政治的・文化的・宗教的な背景は、彼の洞察にどのような影響を与えたのだろうか。『ヘルメス文書』が偽書であることを見抜いたカゾボンの手法は、本当に独創的なものだったのだろうか。あるいは、一般に知られていた手法を、従来とは異なる角度から採用したものなのだろうか。本章では、こうした問題が新たに発掘された史料の分析から多角的に議論される。つづいて、カゾボンの発見を目の当りにした同時代の三人のカトリック教徒たちの異なる反応とそれぞれの立脚点が考察され、最後に時代的にはすこし離れた一七世紀後半から一八世紀の文芸共和国の学者たちによる評価が概観される。
パリのクリストフから聞いたのですが、彼のつくったタロットについてテレヴィ番組が今夜 Arte で放送されるそうです。仕事のためにオランダにいるので、残念ながら見ることができません。
2015. 2. 17 火
トニー計画は、11月末に原稿一式を担当の方に預けていましたが、年末の夢の饗宴でお会いして簡単にやりとりした感触はよいものでした。ひと通りの読みが終わったようで、連絡をもらいました。複雑な本なので、読者の利便を考えて各章ごとに400から800字の要約をつけることにしました。それから、巻末に2000字から5000字ほどの解説をつけることになりそうです。まずは、要約からこなさないといけません。> 福西さんと手分けして全10章の要約をつくるとして、とりあえず夕方に後半の最初である第5章のものをつくってみました。役に立つかどうか、幾人かの意見を聞いてみましょう。
宗教学史の鶴岡先生による『知のミクロコスモス』の書評が、立教大学の『史苑』誌に出たようです。近いうちに、大学レポジトリーから誰でもダウンロードできるようになるでしょう。要チェックですね!僕もまだ見ていないので、とても楽しみです。
2015. 2. 16 月
昼前に家に帰ってきて、午後はセミナーの準備にいそしみました。今週はアウグスティヌス、来週はペトルス・ロンバルドゥスについてです。後者の副教材をまだ決めかねています。アダム君とクニ君に相談しつつ、幾つか文献を吟味しました。アリストレスがラテン中世で受容される以前のキリスト教的なコスモスを描いているもので、学生が読めるレヴェルの英語の論文を探しています。仏語や伊語にはいいものがあるのですが。
2015. 2. 15 日
金曜からデュッセルドルフ、リェージュ、ブリュッセルと3つの都市をハシゴしました。疲れましたが、楽しかったです。
2015. 2. 14 土
どうやら、4年前にケンブリッジでおこなわれた国際会議からの論集
『医師たちの秘石:古代から近代までの錬金術と医学』 が、シカゴ大学出版から正式に出版される運びとなったようです。寄稿したのはデュシェーヌについての論文「ガレノス医学と医化学を調停する」で、僕としてもアメリカのメジャーからの出版は初めてです。これまた時間がかかりましたね。
2015. 2. 13 金
これまでアヴィセンナの『医学典範』のラテン語訳は、Olms 書店から復刻されている手稿風の1507年ヴェネツィア版ではなく、1555年のジュンタ版を使っていました。しかし、ウェブ上にあるものは画質が悪く、どうも視認性が低いものでした。ここにきて、エリザベトがはるかに質の良い1558年のバーゼル版を見つけてきました。これは、ずっと読みやすいです。皆さんも、ダウンロードしておいた方が良いですよ。
これくらい視認性が高い版がアヴェロエスの『自然学』大注解にもあれば、理想的です。良いものを見つけた方は、お知らせください。もしかしたらヴェネツィアのジュンタ書店よりも、バーゼルの印刷業たちの方が視認性の優れた活字組をしていたのかも知れませんね。
僕が『ルネサンス哲学辞典』に寄稿した記事「種子の理論」の校正もきました。前と同じ書誌データの問題を抱えていますが、事情が分かっていますので、大丈夫です。
2015. 2. 12 木
つづいて、『ルネサンス哲学辞典』に寄稿したもうひとつの菊地原君とのコラボ記事「梅毒」の校正が来ました。前回の記事と同じ問題を抱えていますが、その他の部分についてはすぐに解決しました。
セミナー「人間とコスモス:古代から近代までの哲学・科学・宗教」は、期待していた生徒が休みだったのですが、なかなかどうして充実したディスカッションとなりました。今回は、古代ローマの哲学者セネカにおける神と人間の概念についてでした。僕も授業していて楽しかったです。さらに、アダム君がスカイプでオブザーヴァとして参加しました。映像と僕の説明は問題なかったようですが、小さい声の学生の発言がマイクでうまく拾えなかったようです。
あとは、昨日と今日とエリザベトが僕のオフィスにやってきて、博論の進め方について話をしました。昨日から、彼女のとり扱っている問題については、アヴィセンナの『医学典範』をみるべきだとアドヴァイスしていました。最初は、大変すぎると駄々をこねているようでしたが、やはり見なければいけないと納得したようで、関係しそうな部分を調べはじめました。やはり、素直でないとのびませんね。
2015. 2. 11 水
例によって、オランダに移動します。明日のセミナーに向けて、教材を週末に読みました。セネカの『自然問題集』の数頁と『セネカを読む:ローマのストア哲学者』
Brad Inwood, Reading
Seneca: Stoic Philosophy at Rome (Oxford: Clarendon, 2005) の第6章「セネカの『自然問題集』における神と人間の知識」です。後者は本当によく練られた一本で、これを読むだけでも、学生たちにとっては古代ローマの自然観や神の像を知るのに良いと思います。
昨日の『ルネサンス哲学辞典』の件は、スプリンガーの方でも混乱があることを認め、責任者たちで話しあって最終決定をしてから連絡するといってきました。ということで、答えを待まっているあいだ足踏みです。
2015. 2. 10 火
木曜のセミナーのための教材の読書をしていたら、菊地原君から連絡がありました。『ルネサンス哲学辞典』に寄稿した「徴の理論」の校正がきたようです。先月の28日に採用してから、10日ちょっとで来たことになります。どうやら校正をインドに外注しているようです。指示によると、書誌データの出版社名を入れるようです。でも、最初にもらった執筆ガイドには出版社名は入れないことになっていたはずです。ドイツの担当者に、どちらが正しいのか質問しました。返事待ちです。
気になったので、すでに出版されている記事を確認したところ、同一の記事のなかでも、出版社名を入れている場合と、入れていない場合があったりします。統一感のない脇の甘いものです。イギリスやアメリカの出版社なら、こういうグレー・ゾーンは残さないでしょう。
ところで、菊地原君の生徒たちの幾人かが、以前におこなったラジオ放送を聞いてくれたようです。これは嬉しいですね。キンドル版も入手してくれたら最高です!> 久しぶりに動画をチェックしてみたら、1年ちょっとで360回以上も再生されていました。これはスゴイですね!
2015. 2. 9 月
なんと!アヴィセンナの『医学典範』の第2書の英訳が出ていたのですね!『医学典範』には、これまでにも幾つか訳がありますが、いずれも一般論をあつかう第1書にとどまっていました。自然薬をあつかう第2書の英訳はインドで出されていることは知っていたのですが、普通に入手できるものではありませんでした。今回のものは、アマゾンで手に入る版です。高いですが、ハーブやアロマに興味ある人には大きな価値があります。これは、事件です!
その後の調べで分かったのですが、この第2巻が2012年の後半に、つづく第3巻と第4巻が2014年の後半に、全巻への索引つきの第5巻が2015年になってから出されたようです。ということで、第1巻だけ1999年に出ていましたが、全5巻が出そろったのはほんの週間前というホットな状態のようです。
2015. 2. 8 日
昨日のエントリーを書いてから、アヴィセンナの『治癒の書』の自然学全4巻の英訳で気になる点を吟味してみました。どうやらアヴィセンナは、四体液の混合 temperamentum から生成する人間の体質と古代ギリシアから不思議な力をもつと考えられた複合薬剤の調整は類似するプロセスだと考えていたことがわかります。薬学や生命の起源についての考察に自然学での議論が、うまく適合する印象を受けます。
全体として McGinnis の訳業は素晴らしいと思います。この調子で、『生成消滅論』の部分も訳出して欲しいですね。個人的に気になったのは、ガレノスに由来する医学の伝統で語られた「全実体」 tota substantia の概念を意識せず、アヴィセンナの意図するところを拾えていないかもしれない部分です。もちろん誤訳ではないのでしょうが、意識していればもっと良くなったかなという感じです。
午後からは、全実体に由来する「特殊形相」 forma
specifica の概念が、アヴィセンナの薬学にどのように適応されるのかという問題について、これまで読んだ幾つかの文献をまとめました。薬学の歴史というのは医学や科学と魔術のあいだに位置する部分なので、どうしても研究の蓄積が少ない気がするのですよね。ちなみに、特殊形相のアイデアは磁石の不思議な力などを説明するためにも使われましたが、スコラ学でいう「実体形相」 forma substantialis とは異なるものです。アヴィセンナも2つを区別しています。
2015. 2. 7 土
エリザベトの博論指導に関連して、アヴィセンナについて以下の2論文を読みました。それで考えたことを書いておこうと思います。そもそも僕が集中的に調査して BH にアラビカのコーナーをつくったのは、レオニチェノ論文の準備のためでしたから、いまから10年前です。その後は、おもにアダム君にこの方面の探究は任せていました。このあいだに、かなりアヴィセンナの自然学の研究が進んでいる感じです。
「アヴィセンナの第一混合の理論」
Abraham
D. Stone, “Avicenna’s Theory of Primary Mixture,” Arabic Sciences and Philosophy 18 (2008), 99-119.
「小さな発見:アヴィセンナのミニマ・ナトゥラーリア理論」
Jon
McGinnis, “A Small Discovery: Avicenna’s Theory of Minima Naturalia,” Journal of the History of Philosophy 53 (2015), 1-24.
アヴィセンナの主著『治癒の書(シーファ)』の自然哲学の部分はアラビア語の原典と後代のラテン語訳の一部が校訂されているだけで、霊魂論をのぞいて現代語訳がなかったので分からないことが多くありました。2009年に、McGinnis による自然学全4巻の英訳がでたことから、研究が増えてきたようです。新たに読んだ2論文は、元素や物質が混合されるときに各要素がどのように生成物のなかに残存するのか否かという問題に関係しています。アヴィセンナの議論はこれまで考えられていたよりも充実していて、アヴェロエスを介して西欧などへ影響を与えた点は見過ごせないだろうということです。>もうひとつ気になったのは、『生成消滅論』の第6章などでアヴィセンナは形相と力能が同じものだと考えていたという主張です。この点については、しっかりと吟味する必要があるでしょう。
個人的な関心としては、こうした自然学における基礎理論が、どのようにアヴィセンナの『医学典範(カノン)』で具体的な物質や生命体についての理解で応用されているのか?という点です。自然学を探求している研究者たちは、ほとんど『医学典範』には言及しないので、とても気になります。やはり、後代の自然哲学にたいする『医学典範』の影響というのは、しっかりと探求されるべき問題だと思っています。
2015. 2. 6 金
エンペドクレスやピタゴラスなどが出てきて霊魂の話をしているルネサンス期のテクストに出会って、これはアリストテレスが霊魂論で先行する学説を批判している部分を土台にしているのだと気がつかない人は、「たくさんの人名が出てくるなあ」というくらいにしか感じられないのでしょうか。こういう学生を導くためには、どうすれば良いのでしょうかね?なかなか苦慮しています。
昨晩は22時くらいから2時くらいまで、クニ君と一緒にヨシ君のラテン語テクストの読解につきあいました。これを気に、あの伝説的なラテン語講読会を復活させようということになりました。ルネサンス・初期近代のテクストを実践的に読むサークルです。興味ある方は、ご連絡ください。
2015. 2. 5 木
今日の午後に、セミナーの第1回としてオリエンテーションをします。さて、何人の学生が顔を出すでしょうか?あんまり多すぎても大変ですし、少なすぎても担当者を順繰りで進めるので負担が大きくなります。例年の感じでは、多すぎて困るということはありません。分野横断的なものをやりたいのですが、哲学史の枠組みでのセミナーですので、現代思想を好きな学生たちが多く、「これは科学だ、哲学ではない」というのですよね。近代以前には、哲学や科学、宗教といった学問の棲み分けがなかったのだと説明してもなかなか理解されないのです。どうやって学生の興味を引きだすか、チャレンジです。
フタを開けてみると、上の記述で心配したような生徒は初めから来ませんでした。少人数ですが、僕の提案したテーマに興味をもっている生徒ばかりです。なかなか良い感じのクラスになると思います。安心しました。
2015. 2. 4 水
さあ、今日からオランダです。今週から後期のセミナーがはじまります。第1回目は軽めにオリエンテーションです。>
昨晩あまりよく眠れなかったので、どうもフラフラです。とにかく、来週から本格的にはじまるセミナーの教材を揃えています。シラバスとともに「ブラックボード」と呼ばれるシステムにワードやPDFといった電子ファイルのかたちでアップしないといけません。
4月の初旬に1週間ほどアメリカに行くため、航空券を入手しました。自分用のメモとして旅程を書いておきます。
3月31日(月) ブリュッセル
10:30-13:00 ニューヨーク
4月07日(火) ニューヨーク
19:30-09:10 ブリュッセル
2015. 2. 3 火
メルマガは無事に配信されたようですね。ダンテの『神曲』でもおなじみの聖者の霊魂が住まうとされた「エンピレウム天」についての研究プラットフォームです。
どうも理解できなかったキンドル版での他のアマゾンのカタログへのリンクの挿入の仕方が、2時間くらいの試行錯誤の末やっとのことで判明しました。そのままではなく、省略形にすると上手くいく感じです。菊地原君とのコラボ企画 「パラケルススにおける梅毒、性愛、そして想像力」 は、審査をへて数時間後に出版されるでしょう。>
出ました!よろしく、お願いします!
2007年にブリュッセルでおこなったリプシウスについての国際会議に参加し、そこから生まれたリプシウス論集にも寄稿してくれたジャンニ(パガニーニ)が、JARS 主催の講演会を学習院女子大学で3月10日におこないます。演題は「ジャン・ボダンと自然宗教の起源」です。また、知の饗宴@新潟でも発表した久保田さんが司会です。詳しくは、こちらのポスターをご覧ください。これは楽しみですね!
2015. 2. 2 月
アダム君とのコラボ企画であるキンドル版の対談 『危険な物質主義の系譜』 は、各方面で好評をいただいております。今日は、もとの動画の方にもコメントをいただきました。ありがとうございます!
『ルネサンス哲学辞典』の担当者に聞いたところ、承認されてからオンラインで出版されるまでに、通常は短くて数週間から長くて1ヶ月くらいかかるようです。よく考えたら、先に承認したエリザベトの記事は、まだ2週間くらいしか経ってないですね。
菊地原君とのコラボ企画の第3弾として、昨年11月にシカゴでおこなわれたアメリカ科学史学会での発表
「パラケルススにおける梅毒、性愛、そして想像力」 に加筆・増補したものをキンドル版で出します。これまた、お楽しみに!
英会話を磨くために、フィラデルフィアにホーム・ステイする計画をある学生さんに提案しました。9月を目標にする感じです。
2015. 2. 1 日
やはり、ココロに余裕があった方が創造的なシゴトができるなと思います。
Osiris 誌の最新号は 『初期近代世界の化学知識』 Chemical
Knowledge in the Early Modern World ということで、450頁に16本の短めの論考が集まっているショーケース的な論集です。もとになったのは、2008年にフィラデルフィアの CHF でおこなわれた化学のヒストリオグラフィについての国際会議ですね。7年の時空を超えて、ヴァージョン・アップして世に出ました。目次は、こちらで確認できます。
雑誌が単行本をかねている形式を Osiris 誌は続けていますが、紙ヴァージョンの出版と同時に、そのままオンラインで論考ごとに単品での入手ができるので、時代の流れにあっていると思います。論集のつくり手としては、全体を手にとって欲しいところですけれどね。ま、これの方がどこかオブスキュアなところに出されて埋もれてしまうよりも、寄稿者としては良いのでしょう。出版社としても売り上げが落ちるのではなく、さらに拡散して最終的には売り上げ向上に役立つという計算なのでしょう。