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ごくごく個人的な「本」日記

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202103

 

2021. 3. 31

昨日準備していたメルマガの原稿を推敲してドロップしました。42の配信となります。

 

午後には、中西さんと準備していた神秘主義についての対談のキンドル化の作業をおこないました。本文を加筆増補するだけではなく、研究者のための脚注を大幅に充実させたのですが、キンドルの自動流しこみで脚注は思うようにレイアウトされず、手動で微調整しないといけません。数時間かけて、12まで試しました。以前に比べて、ダウンロードできるまでの待ち時間が短くなっているのは救いです。

 

 

2021. 3. 30

つぎのメルマガのために、ヘルメス主義についての対談を文字起こししました。明日、推敲してドロップします。

 

 

2021. 3. 29

つぎのメルマガを準備しないといけません。今回は、どうしましょうか?とりあえず今日は、コロンビアに提出しないといけない書類を書いています。

 

ユキコさんとの対談動画「世紀末イギリスの幻想・驚異・怪奇・ゴシック!?」のプレミア公開にむけた告知をはじめます。

 

 

2021. 3. 28

緊急対談から1日が経過しましたが、視聴数も一気に3000に近づき、ツイッター上の反応も良いものが大多数なので、とても驚いています。つまらない非難圧力が、もっとあるだろうと予想していたからです。もちろん参加いただいたパネラーの方々はバランス感覚も素晴らしく、経験に根ざした洞察に学ぶものが非常に多かったです。ディスカッションの叩き台となる教材としても機能するのではないでしょうか?

 

 

2021. 3. 27

6に起きて、日本時間で21時(こちらは8時)からの緊急対談に備えました。大舞台での生配信は今回がはじめてなので、準備しておいた生配信用のセッティングで動画がうまく送りだせるか、本当に直前まで心配だったのですが、動画がコントロール室に流れてきたときには、思わず声をだして喜んでしまいました。緊急対談そのものよりも、ロジスティックの方に神経がいっていたので、本番は気負いなくスムーズにできたかと思います。

 

緊急対談の同時チャットでは、荒らしを目的とした人が2ほどいたようですが、1名はすかさずバンしました。もう1名は見極めが簡単ではなく、結果的に放置状態になってしまったので、これは申し訳なかったなと思います。次回の課題です。全体的には、おおむね好評だったのではないでしょうか。続編をのぞむ声の大きさには驚されました

 

 

2021. 3. 26

ゼンネルト論文をプルーフ・リーディングに出しました。特集号の編者ウテには、でき次第送りだしたいと思います。また415にフィラデルフィアの科学史インスティテュートで開催されるセミナーのために、フェローたちに読んでもらうことになっています。

 

英文学者ユキコさんとの対談の動画「世紀末イギリスの幻想・驚異・怪奇・ゴシック!?」は、43日(土)21にプレミア公開します。動画の説明欄もいつになく充実していますので、お時間ある方はそちらの方もチェックして気分を高めておいてください。

 

 

2021. 3. 25

パラケルスス派の主張する三原質の理論は、すでに古代の医学者ヒポクラテスが先鞭をつけていたとゼンネルトは主張します。これは、パラケルスス主義者のセヴェリヌスがパラケルススを擁護するために考案した考えをもとにしています。今日は、同時にゼンネルトが参考にしていた反パラケルスス主義者のエラストゥスの見解も、ここで汲んでいるのかを確認していました。いまの段階では明確なことはいえないですが、最初の一歩にはなるだろうと思います。

 

 

2021. 3. 24

昨晩は日本時間で午前10時(夏時間となった米東海岸は21)から、『錬金術の秘密』の読書会でも活躍いただいた幻想・怪奇・驚異を探求する英文学者のユキコさんとの対談を収録しました。いつも視点が面白く、なかなか味のあるものになったと思います。今週は土曜日に、緊急対談として「ミソジニーによるハラスメント:ヘイトの問題との近似性」を生配信するので、そのつぎの週にあたる43日(土)の21時にプレミア公開します。

 

 

2021. 3. 23

昨日の件、どんな難癖外圧がくるかと思いきや、いまのところナシのぶて。おそらく女性マイノリティだったら、天地がひっくり返るくらいにやられるのでしょう。ま、そういう問題だということです。

 

前回の偽パラケルスス論文と同じように、ゼンネルト論文はまったく引用のない体裁(それはそれで新境地だと個人的には思っています)だったのですが、やっぱり少しは入れようと思いなおして、いくつか見繕っていました。まだラテン語からの翻訳が甘いですが、それは明日からてこ入れします。

 

 

2021. 3. 22

昨今の女性蔑視(ミソジニー)の問題で、狂った個人にかぎった話ではなく、もっと根深い仕組みがあるのではないかという疑念から思いたち、隠岐さやかさん、玉田敦子さん、松本直美さんを特別ゲストに迎えた緊急対談を、日本時間で327日(土)21時からBHチャンネルで生配信します。配信の個別URLは、開始直前に告知します。

 

 

2021. 3. 21

フェルネルの『隠れた事物の原因について』を仏訳して出版したばかりの、ジャン・セアール御大から連絡があり、一冊を僕に送ってくれるということです。思ってもいなかった申し出に、とても感激しています。2007年に開催したゲマについての国際会議とそれをもとにした国際論集でお世話になってから、ずいぶんと時間が経過しましたが、当時もとても親切にしていただきました。ルネサンスについての「歩く百科事典」という表現がぴったりの偉大な才人です。

 

英語に翻訳されていないので知らない方も多いと思いますが、セアール御大の主著『自然と驚異:16世紀における不可思議Jean Céard, La nature et les prodiges: l’insolite au seizième siècle (Droz, 1977は不朽の名著で、『驚異と自然の秩序』のパーク&ダストンや『自然の占有』のフィンドレン、『情報爆発』のアン・ブレアなど、現在では世界を牽引する位置にある研究者たちが博論を書いていた8090年代に大きな影響を与えた本なのです。驚異についての研究が世界的に盛んなのは、セアール御大の本からの影響に依拠するところが大きいのです。

 

 

2021. 3. 20

あれから一晩が経ちましたが、幸いなことに異常はありません。左腕の注射した箇所がちょっと痛いだけです。テレビで見るような、長い針をザックリ刺す感じではなく、インフルエンザの予防接種とほとんど変わりありません。

 

日本にも招聘できたことがあるイタリア人のルネサンス学者テオドロから、奥さんの訃報を聞きました。まだ若いのに、娘さんを残してです。もともとはフィチーノの研究からスタートして、高校教員になり、そのあとアメリカにわたって博士号をとった後にゲントで教えていたのですが、僕も2019年春にベルギーに戻ったときに、ゲントでの講演をセットしてくれました。

 

 

2021. 3. 19

ゆえあって、今日は隣のニュージャージー州まで行って、ワクチンを接種する予定です。>14に家を出発して、現地には30分ほど滞在し、19に家に帰ってきました。急にワクチンの日程が決まってから、なんともいえないプレッシャーをずっと感じていたのですが、いまのところ異常はありません。

 

 

2021. 3. 18

原稿の執筆のために足踏みしていたBHチャンネルの方は、もうひとつビッグなゲストの話がまとまりそうです。収録と公開は4になってからとなりそうです。

 

 

2021. 3. 17

今日はゼンネルト論文の全体をとおして推敲をつづけています。細かいデータのチェックをしつつ、ひとつひとつ議論の甘いところを潰しています。中西さんから教えていただいたゼンネルトオスマン・トルコでの受容をあつかった著作の書誌も、しっかりとすべり込ませました。

 

雑誌の表記スタイルを確認して、原稿の全体に微調整をほどこしました。あとは週末にプルーフ・リーディングをしてもらってから、編者に提出したいと思います。これで息がつけるようになりました。1週間ほど遠いところへいっていましたが、なんとか下界に帰ってきた気分です。

 

 

2021. 3. 16

今日は昨日からの作業の流れで、3部構成の論文の3を集中的に整備しました。細かいデータを確認しつつ、書誌情報を補い、だいぶ良くなったと思います。ところで論文のタイトルは、とてもシンプルに「ゼンネルト、キミア、そして神学論争“Daniel Sennert, Chymistry and Theological Debates” でいこうと思います。一昨年に入手しておいたプロイセンに関係する文献が役にたっています。

 

 

2021. 3. 15

コーペンヘイヴァ―版やスコット版、そしてフェステュジエール版を駆使して、ついに『ヘルメス文書』からの引用を見つけることができました。これはなかなか難しかったです。忘れていたのですが、いつのまにか仏訳のフェステュジエール版は4冊中の3まで入手していました。前回の世界霊魂についての論文でも、気がついていれば苦労しなくて済んだのですね。

 

午後には論文化の作業がだいたい終わり、全体が見えてきました。これから1週間くらいで推敲を重ねて完成させたいと考えています。しかし、これで缶詰作業から脱出できると思うと、なんだか安心しました。

 

 

2021. 3. 14

ついに缶詰状態3日目となり、だいぶ見通しが良くなりました。しかし『ヘルメス文書』からの謎の引用が、どうしても同定できません。分からなければ言及しない手もあるのですが、議論の流れからはあった方が格段に良いと思います。

 

 

2021. 3. 13

昨日ここに書いたとおり、缶詰状態となっております。あまり他のことはできません。

 

 

2021. 3. 12

この日記でも触れていますが、2019年の晩秋にドイツのヴォルフェンビュッテルで開催された国際会議『錬金術と諸大学』において、ゼンネルトのキミアと神学論争についての論考を発表しました。コロナ禍で気持ちの切りかえが上手くできずに、ずっと遅れていた論文化の作業にやっと入りました。今回は残り時間も少ないので、無理せずに30の発表原稿に脚注をつけただけの短尺でいきたいと思います。ちょっとのあいだ缶詰状態となります。

 

 

2021. 3. 11

ある海外の学術誌の特集号として、「多神論と汎心論Pantheism and Panpsychism が予定されており、それに参加して欲しいという依頼がありました。多神論については、それほど知識はありませんが、汎心論なら僕がずっと研究している普遍生命 universal animation の考えと関係が深いので、こちらなら寄稿できるかも知れません。

 

初期アッバース朝バグダードにおける宮廷占星術師と歴史叙述 Antoine Borrut, Court Astrologers and Historical Writing in Early Abbāsid Baghdād, in The Place to Go: Contexts of Learning in Baghdād, 750-1000 C. E., ed. Jens Scheiner & Damien Janos (Princeton: Darwin Press, 2014), 455-501 という論文を読みました。近年の研究動向について気合いの入ったサーヴェイを展開しています。シリアのキリスト教徒などイスラム圏外の史料の重要性や、歴史学において占星術が軽視されている点などを、するどく指摘しています。

 

この論文の後半では、とくにピングリーが先鞭をつけたエデッサのテオフィロスc. 695-785)の事例に踏みこんでいます。ギリシア系のキリスト教徒で、バクダードの宮廷占星術師として活躍した人物で、アラビア語圏の最初の占星術師のひとりであるマーシャアラーフの同僚です。

 

 

2021. 3. 10

昨日読みだした『ヘレニズム期の占星術におけるダイモン』は、ポルピュリオスをはじめとする新プラトン主義者たちの占星術への関心や実践を、これまでの哲学における研究成果と無理なく結びつけることに成功している点がみごとです。これは本当にスゴイ本ですよ。著者のドリアンさんは、ウォーバーグ研究所のチャールズさんのもとで博論を書いたのですね。ピーター・アダムソンやジェイムスともつながっていることが分かります。

 

プロティノスイアンブリコスがなにを考えていたのか。新プラトン主義者たちに影響を受けたアラビア・イスラム圏の知識人や、ルネサンス期のヨーロッパの人々の占星術への関心が、非常に深いところに根ざしていたことが理解できます。ということで、アラビア学やルネサンス学を専門とする人にも有益な本だと思います。

 

とくに個人的に感銘を受けたのは以下の点です。各人がもつ守護ダイモンの加護を受けることが真理の探究に欠かせないとプロティノス以降の新プラトン主義者たちは考えていましたが、とくにポルピュリオスは占星術によって守護ダイモンが「どの惑星か」を知ることができると考えて、星図を読むことを学ぼうとします。イアンブリコスは、真理への道は神働術による方法か、占星術をはじめとする技術的な方法があると考え、前者を優先しますが、後者を否定するものではありませんでした。つまり、占星術にたいするキンディーフィチーノの態度は、こうした考えを底流にもつ伝統が背後にあると理解できるでしょう。

 

 

2021. 3. 9

午前中は、もうすぐ開設するアラビア占星術の専用頁のために、テスターの『西洋占星術の歴史』を再読していたのですが、訳者の山啓さんは、占星術におけるダイモンを「」と訳しています。ダイモンの英訳のひとつである spirit をもとにしたからだと思いますが、それでもちょっと違うような気がします。

 

気になったので、『ヘレニズム期の占星術におけるダイモンDorian Gieseler Greenbaum, The Daimon in Hellenistic Astrology (Brill, 2016) という大冊から、ギリシア語で oikodespotes いわれる占星術における「家主housemaster の概念をあつかう7を読んでみました。ギリシア哲学で伝統的に語られてきた守護ダイモンの考えが、この概念と結びつけられていくというものです。そしてアラビア占星術でアルココデンとなっていくことが分かりました。しかし、この本はスゴイですね!

 

 

2021. 3. 8

スローな動きでいきたいと思います。年末前からずっと粘りよく対談の交渉をしていた方がいるのですが、ついに収録日を決めることができました。西洋学者なのに和風の吉日を気にするなど、ちょっと風変わりな興味ぶかい方です。

 

 

2021. 3. 7

アルテフィウスという中世アラビアの錬金術師が、『ピカトリクス』の著者クルトゥビーと関係があったという話を、ローマの大橋さんから聞きました。気になったので調べてみましたが、直接の関係というよりも、Paola Carusi さんの初期の論文が比較のためにクルトゥビーの『賢者の歩み』を幾度も言及したということのようです。

 

 

2021. 3. 6

まだまだ知的興奮が冷めないところですが、とりあえずこれまでの知見をまとめる専用頁を開設しました。ちらです。これから徐々に充実させていきます。ちなみにアンダルシア地方というよりも、イスラム支配の地域はアンダルスと呼ばれているようなので修正しました。昨夏の『ウシの書』から始まって、純潔同胞団ジャービル星辰魔都ハーランといった具合にアラビア関係の専用頁も増えてきましたね。

 

ほとんどないのは知っていますが、それでも錬金術書の『プラトンの四書Liber quartuorum Platonis についての研究を調べてみました。錬金術師のイブン・ウマイルIbn Umail, c. 900-c. 960)と、なんらかの関連があるかも知れないですね。> まとまった論文として、「偽プラトンの『四書』についてPierre Thillet, “Remarques sur le Liber quartorum du Pseudo-Platon,” in L’alchimie et ses racines philosophiques, ed. Cristina Viano (Paris: Vrin, 2005), 201-232 があることが分かりました。時間があるときに読んでみたいと思います。

 

 

2021. 3. 5

純潔同胞団の『書簡集』の特徴には、いろいろな点があげられるでしょう。しかしアンダルスでの影響を考えるうえで、昨日ここで言及したゴドフォワの論文「アンダルスの哲学と秘教主義」が強調するのは、秘教的な枠組みにおいて新プラトン主義の流れをくむ宇宙論とコーランの寓意的な解釈を結びつけることです。この長尺の論文では、細かい表現や内容の類似だけではなく、イブン・マサッラ自身が自著は独創的なものではなく、名前を明示することなしに、「彼ら」の著作にもとづいて執筆したと告白している点にも光を当てています。

 

イブン・マサッラが東方から帰還したのは910年代なので、それ以前に純潔同胞団の『書簡集』がほぼ執筆されたことになると指摘しています。つまり時代的にいえば、『書簡集』はキンディー801-873)とファラービー870-950)のあいだに存在した新プラトン主義の書物ということになります。哲学史の文脈でも、これは地殻変動を起こすものとなる気がします。

 

さらにこの年代再考によって、純潔同胞団の『書簡集』はジャービル文書が錬金術を中心とする前期から百科全書的な次元をおびてくる後期のあいだに存在したことになるので、錬金術の歴史でも重要な意味をもつだろうと考えられます。『プラトンの四書』のような新プラトン主義との関係が疑われる錬金術書の位置づけを分析する手がかりとなる予感がします。

 

もっといえば、アヴィケブロン1020-1070)の『生命の泉 Fons vitae のような流出説をとる書物が中世のイベリア半島で幾つも生まれますが、その遠因になっているのではないかと考えられます。「中世ヨーロッパにおける純潔同胞団の百科事典の直接的・間接的な影響Rémy Cordonnier, “Influences directes et indirectes de l’encyclopédie des Ikhwān al-safā’ dans l’occident chrétien,” Le Muséon 125 (2012), 421-466 という論文が、状況の詳しいマッピングをしています。

 

このように純潔同胞団の『書簡集』の想定される成立年代がかなり早まるのは、哲学史錬金術史など分野横断的な思想地図に刷新をうながす発見だといえるのではないでしょうか。1996の発表から2012ごろまで認知が遅れたのは、もったいない話です。

 

 

2021. 3. 4

従来の考えでは、純潔同胞団980年代にイラクで活動し、彼らの百科全書である『書簡集』はアンダルスに1000年代に持ちこまれたと理解されていました。226日に言及した Fierro の論文は、クルトゥビーが『書簡集』を930年代にアンダルスに持ちこんだと提唱しており、純潔同胞団の活動時期そのものにも再考を迫るものです。ゴドフォワの一連の論文からは、この提唱は数々の事実に符合し、この年代の再考により、これまで謎だった幾つかの問題を解くカギを与えることがわかります。

 

たとえば、ウマイア朝下のアンダルスで最初の哲学者の一人とされるイブン・マサッラIbn-Masarra, 883-931)をあつかう『アンダルスの神秘主義と哲学Michael Ebstein, Mysticism and Philosophy in al-Andalus (Brill, 2014) では、クルトゥビーの活動と『書簡集』の影響がほぼ考慮されていません。イブン・マサッラが時代的に先行すると想定するなら当然でしょう。しかしゴドフォワの論文「アンダルスの哲学と秘教主義Godfoid de Callatay, “Philosophy and Batinism in Al-Andalus,” Jerusalem Studies in Arabic and Islam 41 (2014), 261-312 では、年代の再考にもとづいて『書簡集』からの影響を丁寧にあとづけています。

 

魔術書『ピカトリクス』のアラビア語原典の著者クルトゥビーですが、もうひとつの著作として『賢者の歩み』という錬金術書も知られています。これまでの歴史家は、この書物を看過してきました。短い論文「クルトゥビーの『賢者の歩み』Wilferd Madelung, “Maslama al-Qurtubi’s Kitab Rutbat al-hakim,” Intellectual History of the Islamicate World 5 (2017), 118-126 は、この著作の隠された重要さを指摘するものです。クルトゥビーは東方遍歴で、古代末期から彼の時代までずっと錬金術の中心地だったエジプトのパノポリスで、あのゾシモスの著作を学んだとされます。とくにアラビア語の翻訳が知られていない著作の知っていることから、当地でギリシア語コプト語をあやつる錬金術師たちから直接に学んだ可能性があるようです。

 

 

2021. 3. 3

昨晩は中西さんとオンラインで、キンドル版の対談原稿のための最終的な打ちあわせをして、今日は午前中にすっきりした眼で原稿を読みなおしました。あとは中西さんに僕が分からないところ微調整してもらい、完成にしたいと思います。題して、『魔術的マトリクスの誘惑:イスラムとヨーロッパの神秘主義とオカルト諸学』です。動画の対談を大幅に加筆増補したもので、一般読者には読みやすく、わかりやすい、研究者には研究動向の見通しをあたえ、非常に充実した脚注がついたお得版となっています。

 

午後は、ベルギー時代の知人でもあるゴドフォワ(デ・カラタイ)による一連の論文を読んでいました。魔術書『ピカトリクス』のアラビア語原典の著者クルトゥビー純潔同胞団の関係についてです。どれも長いのですが、繰りかえしが多く、新しい知見が少しずつ入ってくる感じです。そこから見えてくるのは、以下の点にまとめられるでしょう。

 

1)純潔同胞団の『書簡集』は、これまで考えられていた時期よりも早く成立したこと

2)『書簡集』がイスラム世界に与えた影響は、これまで理解されていたものよりも広範であること

3)とくにアンダルスで興隆する秘教主義へのインパクトはずっと直接的なものであること

4)マクロコスモス・ミクロコスモスの照応で語られるものは、究極的には世界霊魂と人間霊魂の関係であること

 

 

2021. 3. 2

新しいものなのか、以前から存在していたものなのか分からないのですが、ルネサンス研究者にはなくてはならない Olschiki 書店をふくむイタリアの学術書店が多く参加しているデータベースに、コロンビアの図書館からアクセスできることを発見しました。これまでの研究者人生で大枚をはたいてきた幾多の書物の電子版が簡単にダウンロードできました。

 

ただし僕のもっている古い Adobe Pro ではファイルを開けられませんが、最新版の無料 Adobe リーダーでは問題なく開けられます。また僕の自宅にある別マシンでも開けられます(同じIPアドレスだから?)が、ロンドン在住の音楽史家の松本さんのご協力で試したところ、送ったファイルは認証がかかって開けられないようです。気軽にファイルをシェアできないと研究は進みませんし、所属が変わったり、大学が方針を変えたりしたら、ファイルが使えなくなるのでは困ります。少し探りをいれる必要がありそうです。

 

どちらにしても、岩波書店に匹敵するようなイタリアの学術出版の老舗が手持ちリストのデータベース化に乗りこんでくるとは、時代も大きく変わったと思います。パッと見たところで参加しているのは、OlschkiStoria e LetteraturaCarocciCluebSerra などです。

 

 

2021. 3. 1

昨日ここで紹介した偽アリストテレスの『植物について』の受容についての国際論集は、なんと!本体がたったの14ユーロと非常にお得で、アメリカまでも送料が無料ということで、ちょっと半信半疑だったのですが、注文の翌日には発送済みの知らせがきました。本当に届くのでしょうか?キツネにつままれたような気分です。

 

 

 

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