純潔同胞団のプラットフォーム
「純潔同胞団」(Ikhwan al-safa / Brethren of Purity)は、紀元後9世紀末にアラビア語圏(現在のイラクの都市バスラ周辺)で活躍した学者集団で、百科全書的な集成を編纂しました。この集成は52篇の「書簡」から構成されており、新プラトン主義に強く影響された宇宙論を展開しています。近年、アラビア語テクストの校訂と英語による対訳の計画がかなり進んでいます。ベルギーから知人のゴドフォワ・ド・カラタイ氏や、日本からは三村太郎君も参加しています。なお、後述する最新の研究によると、910年代にはすでに成立していた可能性があり、早いものでは840年代まで遡れる可能性があると考えられているようです。
【数学と論理学】 1. 代数学 2. 幾何学 3. 天文学 4. 地理学 5. 音楽 |
On
Arithmetic and Geometry (2013) On
Arithmetic and Geometry (2013) On
Astronomia (2015) On
Geography (2014) On
Music (2011) |
6. 数字と霊魂の関係 7. 学芸 8. 技芸 9. 特徴 |
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Composition and the Arts (2018) On
Composition and the Arts (2018) On
Composition and the Arts (2018) [---] |
10. 範疇論入門(イサゴーゲー) 11. 範疇論 12. 命題論 13. 分析論 14. 分析論後書 |
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Logic (2010) On
Logic (2010) On
Logic (2010) On
Logic (2010) On
Logic (2010) |
【自然哲学】 15. 自然学 16. 天空論 17. 生成消滅論 18. 気象論 19. 鉱物論 20. 自然の本性 21. 植物論 |
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the Natural Science (2015) On
the Natural Science (2015) On
the Natural Science (2015) On
the Natural Science (2015) On
the Natural Science (2015) On
the Natural Science (2015) On
the Natural Science (2015) |
22. 動物論 23. 事物の構成 24. 感覚・感覚されるもの 25. 種子の落ちるところ 26. ミクロコスモス 27. 身体における霊魂の発生 28. 可知の領域 29. 生死 30. 快楽・叡智 31. 言語 |
シリーズに先行する単著(2009) [---] [---] [---] [---] [---] [---] [---] [---] [---] |
【霊魂論】 32. ピュタゴラス派の知性論 33. 知性論 34. マクロコスモス 35. 知性と可知物 36. 霊魂の変化 |
Sciences
of the Soul 1 (2016) 邦訳あり Sciences
of the Soul 1 (2016) 邦訳あり Sciences
of the Soul 1 (2016) Sciences
of the Soul 1 (2016) Sciences
of the Soul 1 (2016) |
37. 愛の本性 38. 輪廻転生 |
[---] [---] |
39. [霊魂の]運動の種類 40. 原因と結果 41. 定義と記述 |
Sciences
of the Soul 3 (2017) Sciences
of the Soul 3 (2017) Sciences
of the Soul 3 (2017) |
【神学と法学】 42. 諸見解と諸宗教 43. 神への道 44. 同朋団の信仰 45. 同朋団員の関係 |
[---] On
Companionship and Belief (2017) On
Companionship and Belief (2017) On
Companionship and Belief (2017) |
46. 信仰の本性 47. 神の律法 48. 神への呼びかけ |
[---] [---] The
Call to God (2019) |
49. 霊的な存在 50. 世界の統治 51. 世界の構成 52. 魔術 |
On
God and the World (2019) On
God and the World (2019) On
God and the World (2019) On
Magic (2012) |
『中世思想原典集成』(平凡社、2000年)、第11巻に、第32書簡と第33書簡の邦訳を収録。
日記での言及
2022. 3. 8 火
僕の新機軸エッセイがお気に召したようで、すすはらいさんがご自身の素晴らしい蔵書から関連書を引きだしながら、ネタバレにならない程度に、素敵な連続ツイートをしてくれました。それをまとめておきましたので、お楽しみください。
3月15日に企画会議があるということなので、講談社現代新書の担当者の方には、1月末から練ってあった企画書のタタキ台をおくりだしました。まずは反応を待ちましょう。
アズーロさんが教えてくれたのですが、『中世思想原典集成』に収録されている純潔同胞団の部分訳は、やっぱりという感じで、知性論についての第32書簡と第33書簡のようです。
2022. 3. 6 日
今日はスローな動きでいきます。> 忘れていましたが、僕としては新機軸のエッセイ「謎の魔術書がひらく知のグローバル・ヒストリー」を寄稿した講談社の文芸誌『群像』の4月号が、ついに明日の7日に発売されます。
2022. 1. 28 金
昨晩は21時から、『群像』への寄稿でお世話になった講談社の方と打ちあわせをしました。3月半ばを目指して企画書をつくります。同じ新書でも、ひとつのテーマに縛られる教科書は乗り気がしないので、気ままに書けるパッケージを考えます。
2022. 1. 26 水
講談社の文芸誌『群像』への寄稿の方も、校正ゲラがいつくるのかと思っています。3月7日に発売予定ですから、2月中に校正と印刷をするのでしょうね。担当の方とは、金曜日につぎの打ちあわせする予定です。
2022. 1. 18 火
講談社の文芸誌『群像』への寄稿した短いエッセイ「謎の魔術書がひらく「知のグローバル・ヒストリー」」ですが、担当の方から無事にオーケーが出ました。これからゲラの作業に入り、3月発売の4月号に掲載される予定です。
2022. 1. 17 月
講談社の文芸誌『群像』に寄稿したエッセイ「謎の魔術書がひらく「知のグローバル・ヒストリー」」ですが、初校についたコメントを勘案して改稿しました。担当の方の反応を待ちます。
2022. 1. 16 日
やっと書評の校正指示を送りだせました。どうしても直さないといけない箇所だけに絞りました。あとは週明けに、講談社の『群像』のための改稿作業を終わらせなければなりません。年末年始からつづくマラソンの終盤です。
2022. 1. 12 水
どうも体調不全がスッキリと抜けきってくれません。文芸誌『群像』への寄稿の改稿作業、書評の校正、そして書類づくりなどが止まっているので、はやく許して欲しいところです。このピンチを乗りきらないと、新しい動画の収録もままなりません。
2022. 1. 7 金
講談社の文芸誌『群像』の担当者から、提出した原稿「魔術書がひらく「知のグローバル・ヒストリー」」への反応が返ってきました。初学者が読んでも、まるで推理小説のようで非常に面白いといっていただけました。狙いが成功しているようで、単純に嬉しいです。あとは文字数制限のために言葉足らずだったところに加筆を依頼されました。それほど難しくないことを祈ります。
2021. 12. 30 木
まだまだ納得のいく仕上がりではないのですが、昨日の段階でほぼ全体ができあがったところで、気持ちが弛緩してしまいました。あと2日あるので、なんとか締めの部分をもう少し研磨したいと思います。
2021. 12. 29 水
だいぶ原稿が整ってきたので、推敲をつづけるのと並行して、中西さんにアラビア語まわりをチェックしてもらうことになりました。海より深く感謝いたします。
2021. 12. 28 火
インテレクチュアル・ヒストリーの展開史にグローバル・ヒストリーの具体例をつなげようとしたら、全体で6500字となりました。しかし上手くなじまないので前半と後半を切りはなし、後半だけで3700字となりました。こちらを整えて簡単な注をつけると4500字になるかなという気がします。あと3日あるので、がんばります。
2021. 12. 26 日
やっとのことで、昼過ぎから原稿の執筆をはじめました。すでに書いてあるものに肉づけしていくつもりですが、最初の段階で2500字あります。依頼は4500字ですので、半分は埋まっていることになります。だいたいの字数を埋めてから、データの確認と推敲をしたいと思います。
2021. 12. 25 土
今日もスローな動きがつづきます。体調の方は完全に回復しました。今月末が締めきりの原稿を執筆するために、静かに気持ちを高めています。シャドー・トレーニングの段階ですね。
2021. 12. 11 土
昨日の動画のプレミア公開時のチャット欄の盛り上がりから、「すすはらい」さんと呼ばれるツイッター・アカウントの声に背中を押されるかたちで、純潔同胞団についてアチコチに断片的に書き散らしていたものを「純潔同胞団と知のグローバル・ヒストリー」という記事にまとめて note に投稿しました。お楽しみください。
ある有名な出版社が出している雑誌に4000字の原稿を頼まれています。インテレクチュアル・ヒストリーにするか、錬金術にするかで悩んでいて、なかなか執筆のための気持ちが入らないでいました。しかし上記の記事を書いたことをヒントにして、原稿の方針がきまったような気がします。上手くいくか分かりませんが、来週に集中して作業したいと思います。
2021. 10. 5 火
10月末締めきりで、400字詰め原稿用紙で10枚の寄稿を某文芸誌?から依頼されました。ちょっと時間的にきついかと思い、11月以降なら対応可と返事しました。よくよく考えると、4000字はA4で4枚欠けるくらいだったでしょうか?普段のメルマガよりもずっと短いですね。良く考えずに応えてしまったという思いもよぎりますが、「スローに行け」という逆行期にあるメルクリウスの声だったと理解しましょう。
ここで半年以上が経過
2021. 4. 1 木
昨日仕込んだキンドル版が審査をとおって、めでたく出版となりました。題して、『魔術的マトリクスの誘惑:イスラムとヨーロッパの神秘主義とオカルト諸学』です。もとの対談を大幅に加筆・増補した本文のほかに、研究者のための非常に充実した脚注もつけています。動画では言及していない事柄として、今後の研究のヒントとなる点にも、いろいろ触れています。
2021. 3. 31 水
午後には、中西さんと準備していた神秘主義についての対談のキンドル化の作業をおこないました。本文を加筆増補するだけではなく、研究者のための脚注を大幅に充実させたのですが、キンドルの自動流しこみで脚注は思うようにレイアウトされず、手動で微調整しないといけません。数時間かけて、第12版まで試しました。以前に比べて、ダウンロードできるまでの待ち時間が短くなっているのは救いです。
2021. 3. 6 土
まだまだ知的興奮が冷めないところですが、とりあえずこれまでの知見をまとめる専用頁を開設しました。こちらです。これから徐々に充実させていきます。ちなみにアンダルシア地方というよりも、イスラム支配の地域はアンダルスと呼ばれているようなので修正しました。昨夏の『ウシの書』から始まって、純潔同胞団やジャービル、星辰魔都ハーランといった具合にアラビア関係の専用頁も増えてきましたね。
2021. 3. 5 金
純潔同胞団の百科全書である『書簡集』の特徴には、いろいろな点があげられるのでしょうが、アンダルシア地方での影響を考えるうえで、昨日ここで言及したゴドフォワの論文が強調するのは、秘教的な枠組みで新プラトン主義の流れをくむ宇宙論とコーランの寓意的な解釈を結びつけることです。50頁を超える論文のなかでは、細かい表現や内容の類似だけではなく、イブン・マサッラその人が自著は独創的なものではなく、名前を明示することなしに、「彼ら」の著作にもとづいて執筆したと告白している点にも光を当てています。
この論文は、イブン・マサッラが東方から帰還したのは910年代なので、それ以前に純潔同胞団の『書簡集』が執筆されていたことになると指摘しています。つまり『書簡集』は、時代的にキンディーとファラービーのあいだに存在した新プラトン主義を色濃く反映した著作ということになります。哲学史の文脈でも、これは大きな再考作業を促すものとなる気がします。
さらに錬金術の歴史でいえば、この成立年代の再考によって、純潔同胞団の『書簡集』はジャービル文書が錬金術を中心とする前期から百科全書的な次元をおびてくる後期のあいだに存在したことになるので、とても重要な意味をもつだろうと考えられます。『プラトンの四書』のような、これまで位置づけが明確でなかった新プラトン主義色が色濃い錬金術書を結びつける役割を果たすのではないかという予感がします。
2021. 3. 4 木
従来の考えでは、純潔同胞団は980年代にイラクで活動し、彼らの百科全書である『書簡集』はアンダルシア地方に1000年代に持ちこまれたと理解されていました。2月26日に言及した Fierro の論文は、クルトゥビーが『書簡集』を930年代にアンダルシア地方に持ちこんだと提唱しており、純潔同胞団の活動時期そのものにも再考を迫るものです。ゴドフォワの一連の論文からは、この提唱は数々の事実に符合し、この年代の再考により、これまで謎だった幾つかの問題を解くカギを与えることがわかります。
たとえば、ウマイア朝下のアンダルシア地方で最初の哲学者の一人とされるイブン・マサッラ(Ibn-Masarra, 883-931)をあつかう『アンダルシア地方の神秘主義と哲学』
Michael Ebstein, Mysticism
and Philosophy in al-Andalus (Brill, 2014) では、クルトゥビーの活動と『書簡集』の影響がほぼ考慮されていません。イブン・マサッラが時代的に先行すると想定するなら当然でしょう。しかしゴドフォワの論文「アンダルシア地方の哲学と秘教主義」 Godfoid de Callatay, “Philosophy and Batinism in Al-Andalus,” Jerusalem Studies in Arabic and Islam 41
(2014), 261-312 では、年代の再考にもとづいて『書簡集』からの影響を丁寧にあとづけています。
魔術書『ピカトリクス』のアラビア語原典の著者クルトゥビーですが、もうひとつの著作として『賢者の歩み』という錬金術書も知られています。これまでの歴史家は、この書物を看過してきました。短い論文「クルトゥビーの『賢者の歩み』」 Wilferd Madelung, “Maslama al-Qurtubi’s Kitab
Rutbat al-hakim,” Intellectual
History of the Islamicate World 5 (2017), 118-126 は、この著作の隠された重要さを指摘するものです。クルトゥビーは東方遍歴で、古代末期から彼の時代までずっと錬金術の中心地だったエジプトのパノポリスで、あのゾシモスの著作を学んだとされます。とくにアラビア語の翻訳が知られていない著作の知っていることから、当地でギリシア語やコプト語をあやつる錬金術師たちから直接に学んだ可能性があるようです。
2021. 3. 3 水
午後は、ベルギー時代の知人でもあるゴドフォワ(デ・カラタイ)による一連の論文を読んでいました。魔術書『ピカトリクス』のアラビア語原典の著者クルトゥビーと純潔同胞団の関係についてです。どれも長いのですが、繰りかえしが多く、新しい知見が少しずつ入ってくる感じです。そこから見えてくるのは、以下の点にまとめられるでしょう。
1)純潔同胞団の『書簡集』は、これまで考えられていた時期よりも早く成立したこと
2)『書簡集』がイスラム世界に与えた影響は、これまで理解されていたものよりも広範であること
3)とくにアンダルシア地方で興隆する秘教主義へのインパクトはずっと直接的なものであること
4)マクロコスモス・ミクロコスモスの照応で語られるものは、究極的には世界霊魂と人間霊魂の関係であること
2021. 2. 26 金
アラビア占星術の歴史についての良い概説を探していたのですが、なかなか見当たらないので、自分で調べて専用頁を開設することにしました。いまその作業を進めています。来週には、お披露目できるかと思います。その作業のなかで、「アンダルシア地方の秘教主義:『賢者の歩み』と『賢者の目標』の著者クルトゥビー」 Maribel Fierro, “Bāṭinism in Al-Andalus: Maslama b.
Qāsim al-Qurṭubī (d. 353/964), Author of the Rutbat al- Ḥakīm and the Ghāyat
al-Ḥakīm (Picatrix),” Studia Islamica 84 (1996), 87-112 という論文を読みました。
『ピカトリクス』のアラビア語原典の著者をアンダルシアで活躍した天文学者マジリティ(Maslama al-Majriti, c.
950-1007)とすることには論争があったのですが、この論文は論争に終止符をうつものです。秘教主義者クルトゥビー(Maslama al-Qurṭubī, 906-964)が本当の著者なのですが、当時としては珍しい「マスラマ・イブン・カジム」という同名の同時代人だったことで、後代に混同されてしまったようです。