ケンブリッジ国際会議
2011年9月22-24日に英国のケンブリッジ大学にて
国際会議「古代から啓蒙期までの錬金術と医学」が行われます。
僕の発表のタイトル
「ジョゼフ・デュシェーヌの『古代人たちのマテリアについて』 (パリ、1603年)における錬金術と医学」
“Alchemy
and Medicine in Joseph Du Chesne’s De
priscorum materia (Paris, 1603)”
会議までの道のり
2011. 9. 27 火
ケンブリッジ会議の発表の模様をおさめたヴィデオを編集して、YouTube にアップしました。探してみてください。考えてみたら、モントリオールでの発表はクレアがしっかりと編集してくれたのですが、ナイメーヘンでの発表のヴィデオは、まだ編集してないのですよね。
2011. 9. 26 月
ポスト・フェステム状態でたいしたことは出来ないのですが、残務の整理に集中しました。
2011. 9. 25 日
この日は、8時からの朝食の後に宿舎を後にして、10時の電車に乗ってロンドンに向かいました。ロンドンではすし屋により、15時前にはスタンステッド空港に到着。17時半のフライトでオランダのアイントホーヘン空港へ。時差の関係で、到着したときには20時を過ぎていました。ナイメーヘンに帰ってからでは食事は無理そうだったので、デンボシュで途中下車してギリシア料理を食べました。それから電車とバスに揺られて、家に到着したのは23時でした。
詳しいことは、明日にでも書き加えたいと思いますが、とりあえずの感想をいうと、今年のベストの会議に参加できて感動でした。
2011. 9. 24 土
今日は会議の最終日です。朝の最初のセッションでは頭脳が起きてない感じでしたので、マーガレット(ガーバー)の発表を聞くことだけに集中しました。
Peter J. Grund (Kansas): Scoller and
Master and the transmission of alchemical dialogues in medieval and early
modern England
弟子と師と中・近世英国における錬金術対話編の伝播
Elaine Leong (Warwick): Tweaking as
creating: recipes and knowledge production in early modern England
初期近代英国におけるレシピと知の生成
Margaret D. Garber (Fullerton):
Circulating the secrets of the Alkahest within the culture of curiosities
好奇の文化におけるアルカエストの秘密の伝達
午後の2つ目のセッションでは、古代・中世・初期近代のキミアの文献学的なセッションでした。
Matteo Martelli (Berlin): Alchemy and
medicine in Graeco-Roman Egypt: the four books by Ps.-Democritus
ギリシア・ローマ期エジプトにおける錬金術と医学:偽デモクリトスによる4つの書
Gabriele Ferrario (Cambridge): Materia
alchemica and materia medica in medieval Islamic lands. New evidence from the
Cairo Genizah
中世イスラム世界における錬金術的マテリアルと医学マテリアル:カイロのゼニツァ寺院からの新証言
Sébastien Moureau (Nancy): The De anima
in arte alchemiae and Roger Bacon: alchemical and medical doctrines
『錬金術のココロについて』とロジャー・ベイコン:錬金術と医学の理論
Didier Kahn (Paris): The Apocalypsis spiritus secreti between
John of Rupescissa, Hermes, and Paracelsus
『隠された精霊による黙示録』:ルネシッサのヨハネス、ヘルメス、パラケルススのはざまで
昼食をはさんで午後に行われた最終セッションでは、ミケーラ (ペレイラ)とラリーの名人芸とでもいえる素晴らしい発表を聞くことが出来ました。残念ながら最後のものはカスという感じで要りませんでした。何で、こんな人を呼んだのでしょうか?
Michela Pereira (Siena): Elixirs East
and West
東と西におけるエリクシル
Lawrence Principe (Johns Hopkins): The
Chymist and the Physician: Rivalry and Conflict at the Académie Royale des
Sciences
キミストと医師:パリ王立アカデミーにおける対立
John R. R. Christie (Oxford):
Alchemical retrospects: historical self-consciousness in eighteenth-century
chemistry
18世紀化学における歴史的な自意識
2011. 9. 23 金
今日は朝の第1セッションの司会をしなければなりませんでしたが、ラファルの発表は規定の20分を大幅に超えるもので、何とか制止しようとしたのですが、いうことを聞きません。結局のところ35分は話したと思います。非常に冷や冷やしましたが、セッション全体では10分ほどの遅れにとどめることができました。ふう。
Jennifer Rampling (Cambridge): The
‘vegetable stone’ and alchemical patronage in Tudor England
チューダー朝イングランドにおける繁茂する石と錬金術的なパトロナージ
Rafał T. Prinke (Poznań): Medicine,
alchemy and patronage in late sixteenth century Prague: a microhistory
16世紀末プラハにおける医学、錬金術とパトロナージ
Tuna Artun (Princeton): Alchemy and
medicine at the Ottoman Court in the reign of Murad IV
ムラド4世治世下のオットマン宮廷における錬金術と医学
朝の2つめのセッションでは、ナンシーさんとキアラ(クリシャーニ)の発表を堪能しました。最後のジョーには期待していなかったのですが、実はなかなかしっかりしたものでした。
Nancy Siraisi (New York): Human
lifespan, length of life, and the powers of Galenic medicine
人間の寿命、人生の長さ、そしてガレノス医学の威力
Chiara Crisciani (Università degli
Studi di Pavia): Elixir and radical moisture in fourteenth- and
fifteenth-century alchemy
14・15世紀の錬金術におけるエリクシルと根源的湿気
Jo Hedesan (University of Exeter):
Recovering the Arbor Vitae: medical
prolongation of life in early modern alchemy
生命の木を再発見する:初期近代キミアにおける医学的な長命
もう一度だけ図書館に行く用があったので、午後のセッションを抜け出しました。
William R. Newman (Bloomington): Isaac
Newton and chymical medicine
ニュートンとキミア的医学
Cécilia Bognon (Paris): Explaining
digestion and assimilation from fermentation to chylification in 18th century
medicine and philosophy
18世紀の医学と哲学における消化吸収の説明:発酵からチリ化へ
Emma Spary (Cambridge): The chemistry
of flavours in Paris, circa 1730
1730年ごろのパリにおける味覚の化学
Bruce Moran (Nevada): Scheide – Kunst:
art and agency at the crossroads of early modern alchemy and medicine
初期近代のキミアと医学の交差点におけるアルスと作用者
夕方には、非常にハリー・ポッター的な場所でのディナーがありました。これはおそらく一生に一度の経験だろうと思います。
2011. 9. 22 木
宿舎の部屋の問題を解決してから、大学の中央図書館に行き、入館証を作成してもらい、手稿室へと向かいました。未公刊の博論も手稿室で閲覧しないといけないルールだからです。15分も待たないうちにサーヴしてもらいました。第一世界大戦以前の博論のオリジナルを手に取るなんて初めてです。テクストはタイプライターで打たれていますが、すべてのギリシア語は手書きで入れられていて、しかも手書きのイラストまで入っています。全体で200頁ほどです。2000年以降に閲覧した人のリストがついていて、僕の前に5名いるようです。そのうち3名は名前を知っている人です。非常にレアなものなので全体の複製を注文しました。一枚につき、20ペンスということです。
今日の午後からケンブリッジ会議がスタートします。僕の発表は最初のセッションの4番目です。> 無事に終了しました。今回は質問が僕に集中しました。
Bink Hallum
(Warwick): An Islamic physician’s reading of the alchemical classics: the Book of Testimonies from al-Rāzī’s Twelve Books
ラーゼスの『12の書』にみるイスラム教徒医師による錬金術の古典の読み方
Peter M.
Jones (Cambridge):Alchemical remedies of an English royal physician: John
Argentein, c.1443–1508
英国王侍医ジョン・アルジェンタインにおける錬金術的な治療法
Adeline
Gasnier (Tours): Iatrochemistry vs. medical orthodoxy: a vain attempt to
reconcile both doctrines at the medical Faculty of Paris
医化学と医学の正統派:パリ医学部における両者の調和の空しい試み
Hiro Hirai
(Nijmegen): Alchemy and medicine in Joseph Du Chesne’s De priscorum materia (1603)
デュシェーヌの『古代人のマテリアについて』における錬金術と医学
2つ目のセッションではこれといった大きな驚きはありませんでした。ただ、有名な医学史家のアンドリュー・カニンガムを見れて良かったです。
Andrew Cunningham (Cambridge): Mercury,
medicine and alchemy
水銀と医学と錬金術
Valentina Pugliano (Oxford): Of resins
and waters: the simple alchemy of Renaissance apothecaries
ルネサンスの薬局にみる単純なキミア
Donna
Bilak (New York): The laboratory construct of John Allin, Puritan alchemist in
Restoration London
王政復古期ロンドンにおける清教徒キミスト・ジョン・アリンの実験室の建設
レセプションのあとにナンシーさんとアンドリュー(ウェア)と近くのレストランで食事をし、それからクレアと二人で町のイーグルと呼ばれる有名なパブで軽く飲んでから宿舎に戻りました。
2011. 9. 20 火
昨日はオフィスに行って原稿をプリント・アウトし、隣の人に迷惑なのでオフィスで大声を出して練習するわけにいかず、家に戻って一回読んでみました。はたして、20分ぴったりでした。なれれば速くなるものなので、当日焦らずゆっくり読むことを心掛けたいと思います。もう少し舌足らずな部分に加筆しても良いかもしれません。夜にもう一回読んでみて決めたいと思います。
ジェニーのたっての要請で、ケンブリッジではパワーポイントを用意することになりそうです。僕としては、もう二度と使わないつもりでいたのですが、大箱に普通の学生を含めた100名以上の聴衆が入るというマンモス会議ですから仕方ありません。非常にベーシックなスライドとなると思います。
2011. 9. 19 月
今日は発表原稿をプリント・アウトして、読みの練習に入りたいと思います。木曜日の朝にケンブリッジ大学の図書館の手稿室で、ちょっと閲覧したいマテリアルがあるので、許可証をとるためにクリストフに紹介状を書いてもらわないといけません。僕が下書きして、サインだけもらうようにしました。それから、水曜日に出発しますので、そろそろ旅の準備もしないといけません。
これまで触れるのを忘れていましたが、僕の発表の内容をすこし紹介しておきましょう。デュシェーヌは、パラケルスス主義キミアについてのベイコンやボイルのメインといえるソースです。これまでキミアに関心ある人以外にはほとんど無名でしたが、最近ではライプニッツなどの17世紀の哲学者を研究する人々に注目されつつあります。多数のキミアのレシピに関する著作のほかに理論的な著作を幾つか残していますが、今回の分析対象である『古代人たちのバルサム医薬のマテリア』 (1603年)は、なかでも重要なものです。僕の発表&論文では、彼の議論に沿って分析を進めています。以下のような感じになります:
1. イントロ Introduction
2. 『古代人の医学のマテリア』における錬金術と医学 Alchemy and Medicine in De
priscorum materia
3. 自然の塩、サルトペトラ、そして位階的原質 The Salt of Nature, Saltpeter
and the Hypostatical Principles
4. 生きた金と引用金 The Animate Gold and the
Potable Gold
5. 根源的バルサム、人間の本性、そして普遍医薬 The Radical Balsam, Human
Natura and Universal medicine
2011. 9. 19 月
今日は発表原稿をプリント・アウトして、読みの練習に入りたいと思います。木曜日の朝にケンブリッジ大学の図書館の手稿室で、ちょっと閲覧したいマテリアルがあるので、許可証をとるためにクリストフに紹介状を書いてもらわないといけません。僕が下書きして、サインだけもらうようにしました。それから、水曜日に出発しますので、そろそろ旅の準備もしないといけません。
2011. 9. 18 日
昨日のうちにケンブリッジ会議のための発表原稿のプルーフ・リーディングをクレアにしてもらったので、今日から読みの練習に入ります。もう2度とパワーポイントは使わないと決めていたのですが、聴衆がせいぜい20名くらいの専門家の集まる会議ならまだしも、学生を多く含む100名以上となる大掛かりな会議ではあった方が無難かな?とも思えます。ちょっと悩んでいます。
発表者の数を数えてみたのですけれど、28名もいるのですよね。3日間の会議ですよ。で、一人の発表時間は20分と質疑が10分ということで、むしろお祭りという感じです。
2011. 9. 16 金
デュシェーヌ反駁の著作は、僕の持っているリオラン・父による1603年のものの他にも、まだ2つほどリオラン・子によるものがあるようです。そして、それに対してデュシェーヌは反論を書いています。これら3つの書物を何とか入手したいところですが。> これら2つは、むしろ『ヘルメス医学の真実のために』 Ad veritatem
medicinae Hermeticae
(1604) の批判のようですので、今回の話には直接は関わらないかも知れません。デュシェーヌによる反駁への反論はウェブ上にありましたが、これには僕の探していることは書いてありませんでした。
Jean
Riolan (fils), Brevis Excursus in
Battologiam Quercetani (Paris, 1604)
Jean
Riolan (fils), Comparatio veteris
medicinae cum nova, Hippocraticae cum Hermetica (Paris, 1605)
Joseph
Du Chesne, Incursio in Riolani Excursum
(Marburg, 1605)
2011. 9. 15 木
デュシェーヌによるガレノスの引用のソースは、『治療法』ということもあって、パドヴァの医学者ダ・モンテ Gian Battista da Monte のなどによる『治療法』への注解書の一節なのかなと仮説を立てていたのですが、ふと、待てよ、もしかすると思う節がありました。デュシェーヌがもっともらしく人文主義者のようにソースを明かしつつ古代ギリシアのことを語るときは、実は第2の父とまでいうほどの師であるシェキウスから影響を受けているというケースが過去にもありました。もしかしたら、この件もそういうことなのかもしれません。ガレノス全集は、いったん横において、そちらを当たってみましょう。
ということで、一日かけていろいろシェキウスの著作を当たってみたのですが、どうもこれだ!というのは見つかりません。それでも、いくつか副産物として面白いものを見つけました。たとえば、シェキウスはパラケルススやヴェザリウスに直接に言及しています。これらについては、別の機会にアタックしたいと思います。
2001. 9. 14 水
今日は朝から、いまでも標準的なキューン版のガレノス全集をダウンロードして、文字検索が出来るように
OCR をかけています。いつかやろうと思っていたのですが、そう思っているだけで数年が過ぎてしまいました。この機会だから、一気にやってしまいましょう。ということで、9巻をのぞく全巻をとにかく入手しました。OCR は時間がかかるので、気長にやるしかありません。ガレノス全集は、BIUM にも全巻あることは知っていますが、どうも最近ファイルの形式を少し変えたようで、なぜか OCR が上手くかかりません。何が原因かはまだ分かりません。あるいは、クラッシュ寸前の僕のマシンに問題があったのかもしれません。とにかく、1巻につき1時間かかるとすれば、20時間です。今日は、これだけで終わりという感じでしょうか?>
しかし、OCR をかけている最中は、PDF が使えないので仕事になりません。困りました。
ただ一箇所、患者を「自然の状態にもどす」 ad naturalem
statum reducere という表現は、ガレノスによるヒポクラテスの『関節について』の第1書の冒頭にあるようです。>
他にも幾つかの場所をみつけました。なお、naturalem のところは pristinum とされているときもあります。これは、ビル(ニューマン)がいっている「原初の状態」 pristine state への「還元」 reduction というキミアにおける伝統的な考え方とも似ているので、デュシェーヌのなかでは双方がつながっていたのではないかと思われます。ということで、この表現にも着目しています。
2011. 9. 13 火
ずっと調査を続けているのですが、デュシェーヌが引用するガレノスの言葉はどこにも見つかりません。非常にもっともらしいガレノス的な言い回しなのですが、どこにもない。どういうことなのでしょうか?先日ここに挙げた『ガレノスと治療のレトリック』という本もチェックしましたが、生得熱の話は出てきません。
2011. 9. 12 月
何とか発表原稿は順調に分量をへらして、目標である4枚以内に入ってきました。もう少し議論を整える必要はあるかと思いますが、それも数時間の推敲で何とかなるのではないでしょうか?水曜日ごろまでに何とかしたいという計算でしたが、それよりも早く済みそうです。> 午後も続いて集中して作業できたせいか、原稿もほぼ完成というところまで近づいてきました。
2011. 9. 11 日
どうも、デュシェーヌがあげるガレノスからの引用にあたる部分は、彼の指定するガレノスの著作『治療法』 Methodus Medendi の第13書にはないようです。ガレノスとキミストたちの言っていることは究極的には同じなのだという彼の著作の主要なメッセージを補強する最終兵器として登場するこの引用は、どう考えたって正真正銘なものでないと彼の主張がメイク・センスしないと思うのですが、なぜか『治療法』のなかには見つかりません。急いで書いたので、別の著作と勘違いしたのでしょうか?あるいは、孫引きで元のソースでの記述に混乱があったのでしょうか?問題の箇所のラテン語の原文と僕の試みの英訳をあげておきます。ちなみに、デュシェーヌの著作に対して厳しい反駁書を書いたパリ医学部長ジャン・リオランは、この問題には気がつかなかったようです。何も触れられていません。
Praecipua intentio medici esse debet ad naturalem
statum reducere laborantem, et quod caeteris neglectis, una adhibenda cura est,
ut illud conservemus, a quo agendi facultas procedit. Haec autem consistit in
calido innato, quod dum validum est, nec impeditum, corpus innoxium conservat,
ita ut quicquid corpori accesserit praeter naturam, quod sit amovendum, semper
calido naturali valido egere, indubitatum axioma sit. Et quamvis in externis
morbis et in quibusdam aliis nihil conferre calor naturalis videatur […], tamen
coniunctio et carnis generatio, et cicatricis inductio non fiunt nihil ab
ipsomet calore innato.
The main goal
of a physician must be to bring a patient to its natural state, and this is the
sole cure to apply, leaving other things aside, in order to preserve the source
of the faculty of acting. Now this consists in innate heat which, being
vigorous and not entangled, preserves the body from danger, so that it is an
undoubted axiom that vigorous natural heat is always needed to remove something
beyond nature coming to the body. Natural heat might seem to confer nothing in
external diseases and other things […], but the union and generation of flesh
and the production of cicatrices are done by nothing but innate heat itself.
『ガレノスと治療のレトリック』 Susam P.
Matten-Perkes, Galen and the Rhetoric of
Healing (Baltimore: Johns Hopkins UP, 2008) という本が出ているようですが、この問題の解決に役立つでしょうか?図書館にあるようなので、月曜日にチェックしたいと思います。
2011. 9. 10 土
ブリュッセルに向かう電車なかで、発表原稿をつくるために昨日まででほぼ出来上がったロング・ヴァージョンを読みながら、必要なところと不要なところを分けていく作業をしました。プリント・アウトした紙の上で行ったので、実際にマシン上でどういう分量になるか分からないのですが、まだまだ努力する必要はおおいにありそうです。自分を鬼にして冷徹なココロで、自分の分身でもある自分の書きものを切り刻んでいかなければなりません。非情な行為ではありますが、いかにストイックであることができるのかを問われる瞬間です。こういうところで、研究者としての格が問われるのだと思います。
2011. 9. 9 金
今日は昨夜のパーティで飲んだアルコールのせいか、朝の3時半に目が覚めてしまって、それからふたたび眠れなかったのですが、いろいろ用があるのでオフィスに向かうつもりです。少し家で作業してから、オフィスに11時頃に到着しました。そのあとは、第2のデュシェーヌ論文における確認しなければいけない事項をひとつひとつ潰していきました。もう一息です。
2011. 9. 8 木
今日はなんとか集中して、第8章の読み直しの作業をできました。16時頃にはロング・ヴァージョンがほぼ完成の運びとなりました。全部で15枚です。こんなに長いまったくの新作を書いたのは、じつは2007年に執筆したリプシウス論文以来ですので、本当に久しぶりです。まだまだ論文としては結論もなく未完成の状態ですが、この作業はここで一旦とめることができるでしょう。夕方から同僚のミヒルの家で研究所のメンバーを集めたパーティがあるので、その前にと思いたってオフィスに行き、プリント・アウトしました。来週1週間で4枚まで短くしたヴァージョンをつくり、それを発表原稿にしたいのですが、その作業のためにはプリント・アウトしてあるものがあると便利だと思ったからです。15枚から 4枚にするのは、ちょっと乱暴に見えますが、今の段階でもテクストだけなら 8枚ですので、繰り返しや余計な話を切り落として、ハイライトだけを集めて半分にすればいいのです。
2011. 9. 7 水
昨日の考えでは、今日は第8章を見直ししていったん全体を完成させるというつもりでしたが、原稿をイントロから見ていって、ちょうど第8章の分析に入る前で一日が終わってしまいました。でも、議論の方はだいぶ整理されてきたと思います。勘違いが幾つかあったのですが、それも修正できました。この作業は時間がかかっていますが、それは最初に使っていた17世紀の仏訳ではなく、ラテン語版の方をつかって丁寧に進んでいるためです。時間はかかりますが、むしろ仏訳よりも著者の意図するところがより正確に分かります。とくに、仏訳は句読点のとりかたというか、文の区切りとかが違うのですよね。それで意味不明のところが出てきます。なお、原稿全体の枚数も13枚になりました。明日こそは、本当に第8章を片付けたいと思います。
2011. 9. 6 火
今日は10時から16時まで休みなしで、第1章と第2章、そして長めの序文を読み直して、原稿に考察をまとめました。昨日も書きましたが、だいぶ話が分かってきました。今の段階では9枚となりました。もうすこし分量を増やして注をつけると、短めですが普通の論文となりますね。明日にでも残る第8章 (これはいったん丁寧に読み込めた部分です)
をもう一度通してこなせれば、全体の第一校は完成となります。その後はひたすら推敲です。
どうも原稿の執筆中は、毎度のことながら缶詰状態ですので、この日記が淡白になりますが、ご勘弁を。
2011. 9. 5 月
今日は昼から、先週うまく読み込めなかった第5章から第7章までを読み直しました。だいぶ意味が分かってきました。やはり今回の僕の話には第5章は大事なようです。逆に、実践的なことがらの並べてある第6章と第7章は、今回の発表ではそれほど使えません。>
もうすこし時間的に余裕があったので、さかのぼって第3章と第4章も見直しました。全部で7枚ほどになりました。残りは、第1章、第2章と第8章です。明日で何とかなるでしょうか?それが終わったら、4枚に入るように余計な枝葉を切り落としていきたいと思います。
2011. 9. 3 土
昨日は結局のところ家で集中して作業することにしました。うんうん、と苦しみながら何とか分析する予定の8章すべてを縦断しつつ、5頁ほど原稿を書きました。といっても、まだまだ読書ノートの域を出ていません。同じ作業を繰り返しながら推敲を加えて、実のある議論にしたいと思います。とくに難しいのは、デュシェーヌの言っていることの一つ一つがロジカルにつながっていないところです。この辺がキミアのテクストを読むときの大変さだと思います。
2011. 9. 2 金
イタリアに発つ前、先週の金曜日に図書館に注文した図版の複製ですが、連絡がないので変だなと思っていました。前回はすぐにメールをくれたからです。仕方ないので昼前に図書館に行ってみました。案の定、間違った場所に注文が転送されていたようで、今日来てくれて良かった&早速のところ午後に作業に取りかかるよ、といわれました。のんきなベルギーなら1ヶ月くらい待ってから変だなと思って問い合わせるところですが、オランダでは3日でも遅れたら変だなと思うべきなようです。そのへん、まだマインドの切り替えができていません。> 午後になってすぐ、カラーでスキャンされた画像が送られてきました。解像度も問題ないようです。これで先々週から気にかかっていた問題は一件落着です。オランダ人は仕事が速いですね。
2011. 9. 1 木
さあ、ここからケンブリッジ会議までは、他のことにわき目をふらず、発表原稿の執筆に専念します!持ち時間が30分で、質疑の時間をのぞくと、実質的には20分の発表ですから、普段のレイアウトで4枚半に収めればいいのです。しかし、この分量で何か本格的な議論ができるとは思えません。主催者は何を考えているのでしょうか?とジェニーに言いたくなります。
2011. 8. 19 金
ここ数日のあいだ別件の作業をしていましたが、ケンブリッジ会議の準備に戻りたいと思います。今回の発表で分析するテクストとして選んだデュシェーヌの著作『古代賢者のバルサム医学について』では、彼の師であるシェキウスから学んだであろう、人文主義的なテイストのある議論も何かあるのではないか?と期待したのですが、それは見つけられませんでした。とくに原子論者としてのアナクサゴラスについて何か記述があればと期待していたのですが。でも、何か見つけられたとしても、それは錬金術と医学の関係についての今回の発表そのものではなく、その後の研究にとって大事なことなので、良しとしましょう。
この著作でデュシェーヌが主張していることは、錬金術師のいう賢者の石とか、第5精髄や飲用金と呼ばれるものは実はすべて同じものを指すのであって、それが生命と健康の秘密をにぎる物質であるバルサム医薬なのだということです。このバルサム医薬とは、パラケルススのいう3原質を内包していて、驚いたことに最終的にはガレノスの唱えた生得熱 calor nativus の正体が、この物質なのであるという結論が導かれます。もちろん、中世錬金術の伝統では、生得熱や根源的湿気 humidum radicale といった医学的なアイデアも吸収されていたのですが、それらをガレノス自身の言葉をもちいて説明したものを、これまで僕は見たことがありません。おそらく、この点がデュシェーヌの議論のもっともオリジナルな部分だと思います。発表では、これをクライマックスにもってくる展開をしたいと考えています。
2011. 8. 16 火
17世紀の初頭、パリ医学部の重鎮であったジャン・リオランが、パラケルスス派を代表するデュシェーヌを反駁するために匿名で書いた『反ケルセタヌス:ヒポクラテスとガレノスの医学のために』 Pro
Hippocratis et Galenis medicina contra Quercetanum,
Paris, 1603 を入手することができました!これは素晴らしい。博論のときに入手したかったのですが、ディディエのようにパリの図書館に通えない身分では無理だなと、あきらめていました。今は何とも素晴らしい時代となりました。これだけのマテリアルに恵まれる若い人たちが、昔の人間より素晴らしい研究ができないのであれば、それは何か間違っています。
2011. 8. 11 木
2本の補遺も含めてテクストを読み終わりました。デュシェーヌの作品のなかでは、『ヘルメス医学の真実のために』 (1604年) に比べて、この『古代賢者のバルサム医学について』 (1603年) という著作の研究はなぜかそれほど存在しません。前者は Hooykaas や Debus が先鞭をつけ、そのあと僕やディディエが本格的な考察を加えました。そのせいかどうか近頃ではベイコンやライプニッツの研究者などが、デュシェーヌに言及するようになりました。しかし、後者の著作についての研究はほとんどないようです。
2011. 8. 10 水
昨日読んだ部分の基本的なアーギュメントは、生命の起源の秘密をにぎる塩が、自然界のどこにも行き届いて存在していて、この塩は動物・植物・鉱物の特性を同時にオール・イン・ワンで備えているというものです。このアイデアについては、デュシェーヌはロジャー・ベイコンや偽ルルス、そしてパリのクリストフ!という謎の錬金術師の著作に依拠しているようです。
素晴らしいことに、このパリのクリストフの著作の仏語訳ともされるもの (1628年)
がウェブ上にありました。確かに、動・植・鉱の性質をひとつで持つという話も出てきます。デュシェーヌのテクストを読み終わったら、じっくり目を通したいと思います。> 問題なのは、『キミア劇場』の第6巻に収録されたラテン語版の内容とぜんぜん違うのですよね。あきらからに後者は、偽ルルスの弟子をうたうだけあって中世の匂いがしますが、前者の方はルネサンス期の贋作のような感触(むしろセンディヴォギウスなどに近い感じ)もあります。
2011. 8. 9 火
ケンブリッジ会議での発表のためにテクストを分析しはじめました。まずは、どういった構成になっているのか?を知るためにラテン語版 (1603年) と仏語訳
(1626年) を見比べながら異同をチェックしました。本体は全部で8章からなり、ラテン語版で70頁ほどですが、ミクロコスモス大賞を取った菊地原君のパラケルスス論文で有名となった徴(しるし)の理論についての長い補遺が2本ついています。どうやら2つのテクストの間には、それほど大きな違いはなさそうです。
Joseph Du
Chesne, De materia, praeparationis modo,
et praestantia medicinae balsamicae priscorum philosophorum,
Cap. 1: De materia, praeparationis modo, et praestantia medicinae balsamicae
priscorum philosophorum, pp. 1-7.
古代の賢者たちのバルサム医薬のマテリア、その調整法や素晴らしさについて
Cap. 2: Proprietates a philosophia
materiae suae tributas sali praesertim convenire, pp. 7-14.
[バルサム医薬]の質料に賢者の学が帰するところの諸特性はとくに塩に適合している
Cap. 3: In sale e terra elscito tria
rerum omnium principia contineri, pp. 15-23.
土からえられる塩のなかに事物の三原質が含まれていること
Cap. 4: Salis naturae vires et
proprietates exemplis illustrantur, pp. 24-30.
自然の塩の力と特性を例示する
Cap. 5: Aurum animatum praecipuum esse
subiectum medicinae philosophorum metallicae, pp. 30-38.
生きている金は賢者たちの金属医学の対象である
Cap. 6: Qua arte paretur sulphur et
mercurius philosophorum ex vegetabili ad faciendum verum aurum potabile, pp.
38-47.
真の飲用金をつくるために、いかにして植物から賢者の硫黄と水銀を取り出すのか
Cap. 7: Medicinae balsamicae ex rebus
omnibus praeparandae et conficiendae ratio, pp. 47-54.
すべての事物からバルサム医薬を調整する方法
Cap. 8: Medicinae balsamicae virtus atque
praestantia, pp. 55-69.
バルサム医薬の力と素晴らしさ
De simplicium signaturis externis tractatus, pp. 70-88.
「諸単体の外的な徴についての書」
De signaturis rerum internis seu specificis, ab
hermeticis philosophis multa cura, singularique industria comparatis atque introductis, pp. 89-130.
「多くの作業と類まれなる技でもってヘルメス主義哲学者たちによって見つけられ、示された事物の内的かつ特殊な徴について」
黙ってひたすら読むことからということで、最初の3章に目を通しました。ぶっ飛びの話になっています。博論のときはこういう感じのテクストばかり読んでいたので、それほど驚かなかったのですが、ここ数年は人文主義医学ということで厳密な議論を展開するものを多く読んできていたので、これは何とも新鮮な宙に浮いている感じの展開です。
2011. 8. 8 月
僕のセミナーに参加していた学生のローセン君が興味を示しているので、ケンブリッジの会議に一緒に行くことになりました。以前のアダム君やクニ君などと同様に近くの安ホテルに泊まりつつ会議に来聴し、ヒロの生徒としてナンシーさんや、ビルやラリーなどのスター的な発表者の知遇をえるなど、恩恵にあずかる仕組みです。
2011. 8. 7 日
今日は安息日です。来週からは、本格的にケンブリッジ会議の準備に入りたいと思います。
2011. 8. 5 金
9月のケンブリッジ会議のポスターができたようです。なかなか面白いデザインです。大きなヴァージョンはこちらを。
2011. 7. 17 日
週明けにオフィスにいったら、早いところ9月のケンブリッジ会議の発表で分析する予定のデュシェーヌの著作『古代人たちのマテリアについて』 De pricscorum
materia (パリ、1603年) をプリント・アウトしたいと思います。この著作を分析した人って、いまだにいないのですよね。なぜでしょうか?
2011. 7. 14 木
ケンブリッジ会議の仮プログラムが発表されました。僕の発表は、初日の朝のセッションです。
2011. 3. 30 水
今年の9月22-24日に英国のケンブリッジ大学で錬金術と医学の歴史に関する国際会議が開かれることは、先日お知らせしたかと思います。参加呼びかけのメールが来ましたので、掲示しておきます。若手などの参加発表を推奨していますので、皆さんも奮って参加ください。ケンブリッジという場所がら、ハリー・ポッターの世界のような素晴らしい環境のなかでの会議となることが予想されます。非常に楽しみです。仮ではありますが、「ジョゼフ・デュシェーヌの『古代人たちのマテリアについて』 (パリ、1603年)における錬金術と医学」 “Alchemy and Medicine in Joseph Du Chesne’s De priscorum materia (Paris, 1603)” という発表を考えています。会議までの道のりをリポートするコーナーを設けました。
2011. 3. 9 水
今年の9月22-24日にケンブリッジで行われる国際会議「古代から啓蒙主義までの錬金術と医学」 Alchemy and Medicine from
Antiquity to the Enlightenment の知らせが送られてきました。大学院生から若手の研究者まで幅広く発表で参加を呼びかけています。会議の核となる特別ゲストには、煌びやかなスターたちに混じって僕の名前も入っています。ついに、こういう位置まで来たのですね。恥をかかないよう頑張ります。
Chiara
Crisciani (Università degli Studi di Pavia)
Andrew Cunningham (University of Cambridge)
Hiro
Hirai (Radboud University Nijmegen)
Didier
Kahn (CNRS, Paris)
Bruce
T. Moran (University of Nevada at Reno)
William
R. Newman (Indiana University)
Michela
Pereira (Università di Siena)
Lawrence
M. Principe (Johns Hopkins University)
Nancy
Siraisi (City University of New York)
Emma
Spary (University of Cambridge)