2001年4月に刊行予定のボッカチオ『著名婦人列伝』、フィチーノ『プラトン神学』第1巻、ブルーニ『フィレンツェの人々の歴史』第1巻、 さらにはペトラルカ『わが秘密』、カルダーノ『自伝』、アルベルティ『モムス』など、文学者・科学者・歴史家を含む多様な顔ぶれによる名著が、 続々と陽の目を見ます。未だ諸科学が未分化であり、ラテン語が学者のユニヴァーサル言語であったルネサンス期を理解する上で、 諸分野にまたがるラテン語による著作を英語対訳で集成する本叢書の企画は、画期的なものといえます。ルネサンス研究に携わるあらゆる専攻の方に、 全巻の継続注文を是非お薦めいたします。

　≪2001年4月刊行≫

　ジョヴァンニ・ボッカチオ『著名婦人列伝』
　Giovanni Boccaccio
　Famous Women
　Edited and Translated by Virginia Brown
　608頁　ISBN 0-674-00347-0　\5,100

　名高い『デカメロン』を完成した後、ボッカチオはペトラルカの人文主義的影響の下で、ラテン語による百科事典的著作に生涯をささげます｡そのうちの1巻として生まれた本書は、西洋文学において女性の伝記を専門に扱った初めての著作といわれています｡取り上げられた106人の女性たちは、模範的女性から悪名高い女性まで、歴史的・神話的人物からルネサンス期の同時代の女性まで、様々な層からなり、ボッカチオの物語作家としての腕によって本書は手稿本の最後の時代においてもっとも読まれる著作となりました｡ボッカチオが生涯にわたって改訂増補を重ね、後世においてはチョーサーの『カンタベリー物語』に影響を与えたといわれる名著の、初の英訳です｡

　マルジリオ・フィチーノ『プラトン神学』第1巻（第1?4の書）
　Marsilio Ficino
　Platonic Theology, Volume 1, Books I-IV
　English Translation by J. B. Allen and John Warden
　Latin text edited by James Hankins with William Bowen
　448頁　ISBN 0-674-00345-4　\5,100

　新プラトン学派に影響を受けたフィレンツェの哲学者フィチーノ（1433-1499）は、プラトンの全著作、またプロティヌスのラテン語訳などで知られます｡中でもフィチーノが心を砕いたのが、真の宗教たるキリスト教と真の哲学たるプラトニズムとの和解であり、その仕事に失われた精神性の復興と黄金時代の再来の願いを託していました｡そんな彼の意図を預言者的に表現した哲学的傑作である本書は、ルネサンス期におけるプラトンの再発見に大きく貢献しました｡今回初めて英訳されるこのフィチーノの主著は、イタリア・ルネサンスの精神性を理解する上で、鍵となる著作です｡

　レオナルド・ブルーニ『フィレンツェの人々の歴史』第1巻（第1-4の書）
　Leonardo Bruni
　History of the Florentine People, Volume 1, Books I-IV
　Edited and translated by James Hankins
　512頁　ISBN 0-674-00506-6　\5,100

　別名アレティーノ、イタリア・ルネサンスを代表する人文主義者として知られるブルーニ（1370?1444）は、4人の教皇に秘書として仕えただけでなく、当時においては翻訳家、演説家、歴史家、さらにベストセラー著作家としてその名を轟かせていました｡20書にわたって刊行された本書は、初めての近代的な歴史書といわれ、1444年の公刊から2世紀もの間、人文歴史学者によって模倣の対象となりました｡この記念碑的名著も、今回が初めての英訳です｡

　≪続刊≫ 
　・Francesco Petrarch, Secret, edited by Nicholas Mann
　・Cristoforo Landino, Camaldulensian Disputations, edited by Jill Kraye 
　・Raphael Rippi Brandolini, Republics and Kingdoms Compared, edited by Shayne Mitchell 
　・Humanist Educational Treatises, edited by Craig Kallendorf 
　・Poggio Bracciolini, Letters, edited by Martin Davies 
　・Girolamo Cardano, Autobiography, edited by Thomas Cerbu and Anthony Grafton 
　・Angelo Poliziano, Sylvae, edited by Charls Fantazzi 
　・Giovanni Pontano, Dialogues, edited by Julia Gaisser 
　・Cyriac of Ancona, Later Writings, edited by Edward Bodnar, S.J. 
　・Flavio Biondo, Rome Restored, edited by Nicholas Horsfall and Marc Laureys 
　・Leon Battista Alberti, Momus, edited by Sarah Knight

　＊シリーズ名の由来
　ハーヴァード大学イタリア・ルネサンス研究センターVilla I Tattiの名から採られています。同センターは、19世紀後半に活躍した歴史家・美術批評家Bernard Berensonが同大学に遺贈した、フィレンツェ近郊の16世紀以来の邸宅から始まり、歴史、文学、音楽、哲学、科学、神学、美術といった種々の領域を架橋するルネサンス研究の中心となっています。