自然魔術とカバラ
 
 
 
その1
 
『事物の徴:パラケルススからライプニッツまでの記号、
魔術、そして認識』
 
Massimo Luigi Bianchi,
Signatura rerum : Segni, magi e conoscenza da Paracelso a Leibniz.
Lessico intellettuale europeo, XLIII)
Ateneo, Rome, 1987. >>> @L.Olschki, Firenze.
199pp. +Index  ISBN : 88-222-3544-4  Price : 44000 Lira (22,55 Euro)
  
 
  皆さんもミッシェル・フーコーの『言葉と物』(1966年)を一度は読んだことがあると思います。その第2章で彼が持ち出す旧世界の(ルネサンスの)世界観を説明するための道具の一つに、自然物の外観に現れる形状的な特徴を記号として読もうとする一種の記号論である「外徴」(シグナトゥーラ signatura)の理論があります。残念ながら、専門家でないフーコーの説明はぎこちないものですが、それなりに知的関心を引かれた人も多いと思います。実は、この理論は、エソテリスムやヘルメス主義の求道者にはお馴染みのテーマでした。これら愛好家の論考は、いかんせん学術的なレヴェルではあまり成功したものはありませんが、それなりにポピュラーなものでした。従って、フーコーはこの理論の伝統を彼の手で発掘したわけではなく、そこここに転がっているエソテリスムに傾斜した雑誌や書籍から取りこみ、うまい具合にアカデミックな世界に紹介したというわけです。ところで、あまりパラケルススのドイツ語の著作を手にとって読もうとしなかったフーコーは、うまいことに仏訳版があったオズワルド・クロルの『 事物の外徴について』 (De signaturis internis rerum)を重用します。しかし、この理論の16世紀後半から17世紀にかけての流行は、その多くをパラケルススの著作と彼に帰される出所の怪しい、よりエソテリックな偽パラケルスス文書に追っているのです。パラケルススのアイデアをクロルに伝達する上で重要な役割を果たしたのが、フランス人パラケルスス主義者でクロルの親友であったジョゼフ・デュシェーヌです。クロルの著作の大成功は、この「外徴」の理論を17世紀中を通して生き残らせます。ケプラーやライプニッツもこの理論伝統と真面目に対面しました。そして、そのエコーは、18世紀から19世紀へと俗化しながら引き続き、最後は上述の愛好家たちの手元まで届くわけです。
    現在まで、パラケルススやクロルのシグナトゥーラ理論は、散発的な研究がある程度されてきています。しかし、この理論の歴史をメインテーマとした学術的に高いレヴェルの歴史は、ここで紹介するビアンキ氏の著作が始めてと言っても良いかもしれません。この理論の歴史を良く知りたい人にとってマスト・アイテムです。本書は3部構成になっていて、まず第1章で、17世紀前半に良く読まれたダニエル・センネンルトの著作に見られるシグナトゥーラ理論をケース・スタディとして解説することからストーリーが始められます。それから、第2章で時代を遡って、最も重要だったパラケルススに大きなスペースが割かれます。第3章では、その後の歴史がライブニッツの時代まで描かれています。
    (後記: この著者による「徴」理論に関する国際会議の論集が最近出されました。解説はこちらをご覧下さい。デュシェーヌとクロルのキミアについては、僕の博士論文でそれぞれ1章づつ割きました。) 
   
 
   
 
「自然魔術とカバラ」にもどる