悪霊、魔女、妖術

 

ヴァイアー研究のプラットフォーム
  


 

 

 

ルネサンス期の医師ヨハン・ヴァイアー(Johann Weyer / Wier, c. 1515-1588)は、悪霊や魔女、妖術についての百科事典を執筆したことで知られています。魔術についての一大奇書である『隠秘哲学について』(1531-1533年)を執筆したアグリッパに師事したあとに、彼はパリで医学を学び、ドイツとネーデルラント国境近くのユーリッヒ=クレーフェ公国の公爵ヴィルヘルム5世の侍医を務めました。最近では、注目のマンガ『魔女をまもる。』で主人公にもなっています。

 

 

 

 

日本語でなにが読めるか?

             

平野隆文『魔女の法廷:ルネサンス・デモノロジーへの誘い』(岩波書店、2004年)

ヴァイアーとその著作、ボダンの批判、ボダンへのヴァイアーの反論を分析する本書は、その全体がヴァイアーについての研究書といって良いでしょう。

 

黒川正剛『魔女とメランコリー』(新評社、2012年)

特別な章は組まれていませんが、各所でヴァイアーに言及されています。

 

槇えびし『魔女をまもる。』(朝日新聞出版、2020年) 中巻下巻

これは注目しているマンガ作品です。つぎに一時帰国したときに入手したいと思います。

 

 

 

 

原典テクスト

 

Johann Weyer, De praestigiis daemonum et incantationibus ac veneficiis (Basel, 1563).

              『悪霊による幻惑、呪いと妖術について』

1564年、1566年、 1568年、1577年、1583年と、ヴァイアーの生涯で再版のたびに増補が繰りかえされています。

初期近代の独訳と仏訳も存在します。

 

 

翻訳

 

George Mora et al. (eds.), Witches, Devils and Doctors in the Renaissance: Johann Weyer, De praestigiis daemonun (Binghamton, NY: CMERS, 1993).

『ルネサンス期における魔女、悪霊、そして医師:ヴァイアー「悪霊による幻惑について」』

全英訳と注解、膨大な付録の用語集を収録しています。

 

 

 

 

研究文献

 

Jan Jacob Cobben, Jan Wier, Devils, Witches and Magic (Philadelphia: Dorrance, 1976).*

              『ヤン・ヴァイアー、悪霊、魔女、そして魔術』

              最初の現代的な伝記で、1960年のオランダ語版からの英訳です。中古市場では超レアとなっています。

 

Sydney Anglo, “Melancholia and Witchcraft: The Debate between Wier, Bodin and Scot,” in Folie et déraison à la Renaissance (Brussel: PUB, 1976), 209-228.

              「メランコリアと魔法:ヴァイアー、ボダン、そしてスコットの論争」

              近年では最初の学術的な分析といえるでしょう。

 

Jean Céard, “Médecin et démonologie: les enjeux d’un débat,” in Diable, diables et diablereries au temps de la Renaissance, ed. M.-T. Jones-Davies (Paris: Touzot, 1988), 97-112.

              「医師と悪魔学:論争の諸要因」

              偉大なルネサンス学者による分析です。題名に名前が出ていませんが、ヴァイアーが分析の中心となっています。

             

H. C. Erik Midelfort, “Johann Weyer and the Transformation of the Insanity Defense,” in The German People and the Reformation, ed. R. Po-chia Hsia (Ithaca: Cornell University Press, 1988), 234-261.

              「ヴァイアーと狂気擁護の変化」

              宗教改革における狂気についての専門家による分析です。

             

Gary K. Waite, “Radical Religion and the Medical Profession: The Spiritualist David Joris and the Brothers Weyer (Wier),” in Radicalism and Dissent in the Sixteenth Century, ed. Hans-Jürgen Goertz and James M. Stayer (Berlin: Duncker & Humbolt, 2002), 167-185.

「急進的な宗教と医師:宗教改革者ジョリスとヴァイアー兄弟」

ヴァイアー兄弟と急進的な宗教改革者ジョリスの関係を探っています。

             

Michaela Valente, Johann Wier: agli albori della critica razionale dell’occulto e del demoniaco nell’Europa del Cinquecento (Florence: Olschki, 2003).

『ヴァイアー、16世紀ヨーロッパにおけるオカルトと悪霊憑きの合理的な批判の起源』

ヴァイアーの伝記です。Midelfort (1988) までを使ったもので、その後の宗教改革学からの知見がない分、物足りないかも知れません。

 

Hans de Waardt, “Witchcraft, Spiritualism and Medicine: The Religious Convictions of Johan Wier,” Sixteenth Century Journal 42 (2011), 369-391.

「魔法、霊性主義、そして医学:ヴァイアーの宗教的な信仰」

低地地方の異端諸派についての専門家による入魂の論文です。

 

Vera Hoorens, Een ketterse arts voor de heksen: Jan Wier (1515-1588) (Amsterdam: Bakker, 2011).*

『異端の医師と魔女たち:ヤン・ヴァイアー』

社会心理学者による大冊の伝記ですが、多くの問題をふくんでいるようです。Hans de Waardt, BMGN 128 (2012), review 23 という書評で酷評されています。

 

Guido Giglioni, “Phantastica Mutatio: Johann Weyer’s Critique of the Imagination as a Principle of Natural Metamorphosis,” in Transformative Change in Western Thought: A History of Metamorphosis from Homer to Hollywood, ed. Ingo Gildenhard and Andrew Zossos (London: Routledge, 2013), 307-330.

想像的な変化:自然な変容の原理としての想像力のヴァイアーによる批判

想像力の問題に特化した分析。Waardt (2011) を参照していないのは、もったいないところです。

 

 

 

 

その他

 

黒川正剛『魔女狩り』(講談社メチエ、2014年)

ヴァイアーについての記述はなし。

 

黒川正剛『魔女・怪物・天変地異』(筑摩選書、2018年)

ヴァイアーについての記述はなし。

 

 

 

 

 日記での言及

 

2021. 5. 13

ヴァイアーについての専用頁のために、黒川正剛『魔女・怪物・天変地異』(筑摩選書、2018年)も入手してみましたが、ヴァイアーについての言及はまったくありませんでした。平野先生の『魔女の法廷』についての言及もありません。

 

 

2021. 5. 3

中西さんに教えていただいたのですが、黒川さんの『魔女とメランコリー』(新評社、2012年)では、ヴァイアーにたっぷりと言及されているようです。『魔女狩り』は紙幅の関係で、ドラスティックに枝葉末節を切ったと理解すれば良いのでしょうかね。一時帰国できるときに入手したいと思います。

 

 

2021. 5. 2

講談社の電子書籍が55日まで実質的に半額となっています。未見ですが、参考までにヴァイアーの専用頁にあげていた黒川正剛『魔女狩り』(講談社メチエ、2014年)を入手しました。実際にチェックしてみると、ヴァイアーについての記述はなく、参考文献に平野先生の『魔女の法廷』も入っていません。これはちょっとですね。>

 

 

2021. 4. 27

昨日に読んだ論文の流れから、悪魔学者として有名な医師ヴァイアーについてのギドの論文を読みました。「想像的な変化:自然な変容の原理としての想像力のヴァイアーによる批判Guido Giglioni, “Phantastica Mutatio: Johann Weyer’s Critique of the Imagination as a Principle of Natural Metamorphosis,” in Transformative Change in Western Thought: A History of Metamorphosis from Homer to Hollywood, ed. Ingo Gildenhard and Andrew Zossos (London: Routledge, 2013), 307-33 です。

 

 

 

 

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