BHの用語集
特殊形相
forma specifica
Lynn Thorndike, A History of Magic and Experimental Science,
New York, 1923-1958 : I, pp. 644-646 (Al-Kindi) ;
II, pp. 209-210 (Maimonides), 535, 563-569 (Albert), 845-859 (Arnald), 906-910 (Pietro).
A.-M. Goichon, La distinction de l’essence et de
l’existence d’après Ibn Sina (Avicenne), Paris, Desclée de Brouwer, 1937.
Pierre Duhem, Le système du monde, Paris, 1958, v. 7,
pp. 569-600.
Jean Céard, La nature et les prodiges : l’insolite
au seizième siècle, Genève, Droz, 1977/1996, pp. 338-342.
Nancy
Siraisi, Taddeo Alderotti and His
Pupils, Princeton, 1981, pp. 295-296.
Bert
Hansen, Nicole Oresme
and the Marvels of Nature : A Study of his De causis mirabilium, Toronto, Pontifical Institute of Medieval
Studies, 1985.
D. Jacquart, La médecine médiévale dans le cadre parisien,
Paris, Fayard 1998, pp. 371-377.
L.
B.P. Copenhaver,
“Natural Magic, Hermetism, and Occultism in Early
Modern Science,” in D.C. Lindberg & R.S. Westman
(eds.), Reappraisals of the Scientific
Revolution, Cambridge, Cambridge UP, 1990, pp. 261-301 : pp.
272-274.
Nicolas Weill-Parot, Les images astrologiques au Moyen Age et à la Renaissance:
spéculations intellectuelles et pratiques magiques (XIIe-XVe
siècle), Paris, Champion, 2002
『中世とルネサンスにおける占星術的象形:12世紀から15世紀における知的思弁と魔術実践』
Isabelle Draelants, “La virtus universalis: un concept d’origine
hermétique?: les sources d’une notion de philosophie naturelle médiévale,” in Hermetism from Late Antiquity to Humanism,
ed. Paolo Lucentini et al., Turnhout, Brepols, 2003, pp. 157-188.
Tristan Dagron, “La doctrine des qualités occultes dans le De incantationibus de Pomponazzi,” Revue de métaphysique et
de morale, [111] (2006), pp. 1-20.
2014. 12. 4 木
入手してからずいぶん時間がたっていた特殊形相にかんする文献をやっとのことで読めました。中世の薬学についてのもので、変なところに出たのでほとんど誰にも知られていません。この概念は、四元素の性質からは生まれてこないもので、普通の中世スコラ主義の自然学では理解するのが難しかった磁石や薬物の驚異的な力を説明するために使用されたものです。アヴィセンナが起源だといわれます。この概念については、そのうちにまとめてみたいと思います。>
この流れで、最近だされた新しい論文も読んでみました。こちらも悪くないものですが、やはり前者を知らなかったようです。双方とも話は近いところをいっています。
2010. 5. 7 金
特殊形相の概念に関しては、『中世とルネサンスにおける占星術的象形:12世紀から15世紀における知的思弁と魔術実践』
Nicolas Weill-Parot, Les images
astrologiques au Moyen Age et à la
Renaissance: spéculations intellectuelles et pratiques magiques (XIIe-XVe
siècle), Paris, Champion, 2002 における、トマス、アルベルトゥス、ヴィラノヴァのアルノー、そしてアーバノのピエトロの分析の部分で大きく議論されているようです。
2010. 5. 5 水
続いて、アダム君に取ってもらった論文「ポンポナツィの『魔術論』におけるオカルト質の理論」 Tristan Dagron, “La doctrine des qualités
occultes dans le De incantationibus de Pomponazzi,” Revue de métaphysique et de morale, 2006, pp. 1-20 を読みました。最後のまとめ方に問題あるかと思いますが、なかなか良い論文でした。特に、以前に BH で話題にした特殊形相の概念のソースがアヴィセンナの『医学典範』にあること、ポンポナツィの著作はトマス ・アクィナスの『奇跡論』 De occultis operationibus
naturae を反駁するために書かれていること、オカルト質の概念の変遷におけるアーバノのピエトロの著作の影響、フェルネルでよく出てくる実体全体 substantia tota の概念など、これまで僕が疑問に思っていた幾つもの点に答えを出す力作でした。この種の諸問題で常に引き合いに出されるコーペンハーヴァやザンベリの研究の先を行っています。中世・初期近代の自然哲学を研究している皆さまに、お勧めする一本です。なお、著者は現在ポンポナツィの『魔術論』の全仏訳を計画中だそうです。完成が楽しみですね。> 特殊形相の問題については、2004年5月に最初に言及したのでした。この記述をきっかけにアダム君がコンタクトを取ってきたのを覚えています。もう6年前になるのですね。
やはり、『中世とルネサンスにおける占星術的象形:12世紀から15世紀における知的思弁と魔術実践』
Nicolas Weill-Parot, Les images
astrologiques au Moyen Age et à la
Renaissance: spéculations intellectuelles et pratiques magiques (XIIe-XVe
siècle), Paris, Champion, 2002 を、早いうちにしっかりと読まないといけないなと思いました。
2008. 4. 23 水
普及の名作『自然と驚異:16世紀における不思議』 Jean Céard, La nature et les prodiges : l’insolite
au seizième siècle, Genève, Droz, 1977/1996 を再び読んでいたら、中世のトマスからルネサンス期のポンポナッツィまでつながる自然魔術の伝統にとって欠かせなかった、驚異的な作用を生む原因とされた特殊形相の理論に関して、久々に新しい知見が得られました。オカルト因についての 338-342頁で、『世界の体系』 Pierre Duhem, Le
système du monde, Paris, 1958 がひかれています。身近にある人は、その第7巻を手に取ってみて下さい。
2004. 7. 16 金
アリストテレスの自然に関する学問の基本は、ヒュレモルフィスム hylemorphim
です。ヒューレーとモルフォス (ギリシア語ではむしろエイドス) にあたる質料 materia と形相 forma という二つの柱からなっています。質料は限定されていない全てに事物に共通の土台で、事物の違いを与えるのが形相です。そして、全ての自然現象は四つの原因で説明されます。質料と形相は何かという質料因と形相因はもちろんとして、それに作用者は何かという作用因、何ためにあるのかという目的因の四つです。この四つの説明原理は、17世紀の半ばくらいまでは殆ど全ての自然に関する学問でしっかりと意識されています。僕の読んでいるテクストは発生論や鉱物論などの具体的な現象を取り扱ったものが多いので、とくに多くの紙幅を割いて議論されるは質料因と作用因です。目的因と形相因は大前提でもあるので、余り議論の余地がないのかも知れません。リチェティも同様で、一番多くの分量が作用因について議論にあてられています。
2004. 7. 5 月
以前に触れた forma specifica (仮に種的形相と訳しておきましょう) の概念についての調査の進展を聞かれました。現時点で僕が押さえているのは次の点です。この概念は、アヴィセンナか彼のソース
(アル・キンディ?)
が起源で、最初は実体形相
forma substantialis よりも特化した事物の特性 (むしろ普通のスコラ学での実体形相の役割)
を示すために使われ、アルベルトゥスなどにも用例は見られますが、本格的に使われるようになるのはトマスよりも後で、14-15世紀になると星辰の影響などのオカルト因を使わないと説明の難しい現象を理解するために流行したようです。これまでに見つけられた参考文献としては、
--- A.-M. Goichon,
La distinction de l’essence
et de l’existence d’après
Ibn Sina (Avicenne),
Paris, Desclée de Brouwer,
1937.
--- D. Jacquart, La
médecine médiévale dans le cadre parisien, Paris, Fayard 1998,
pp. 371-377.
---
L. Daston & K. Park, Wonders and the Order of
Nature, 1150-1750,
---
B. P. Copenhaver, “Natural Magic, Hermetism, and Occultism in Early Modern Science”, in
D. C. Lindberg et R. S. Westman (eds.), Reappraisals of the Scientific Revolution,
Cambridge, Cambridge UP, 1990, pp. 261-301, eps. pp. 272-274.
といったものがあります。僕もフラカストロ論文の中で触れたのですが、まだ決定的な研究は行われていないようです。中世後期の自然学、医学、占星術だけではなく、ルネサンス期のオカルト哲学伝統のつながりなど、この問題は応用範囲も広く、上手く形に出来れば世界にアピールする力は大きいと思います。『アラブ・ラテン伝統における種的形相の概念』
The Idea of Specific Form in
Arabo-Latin Tradition なんて博士論文が出来たら素晴らしいじゃないですか!ガッツのある人はアタックしてみて下さい。幾らでも応援しますよ。世界に誇れるパイオニアになれるチャンスです。
2004. 5. 25 火
どなたか、中世末期に流行した「種的形相」
specific form あるいは forma specifica の概念についての文献を知っている人は教えて下さい。何でも構いません。