総合文献案内
その6
『錬金術の危機』
V.Pasque et al. (ed.),
Le crisi dell’alchimia / The
Crises of Alchemy.
Brepols,
Turnhout (Belgium), 1995.
[Micrologus, III] 389pp. + Index
ISBN --04200032-3 Price 1800 BF
その5で紹介した Clericuzio 氏を中心としたメンバーが16世紀そして17世紀を中心に国際シンポジウムを開催する一方で、中世ラテン錬金術研究者もここに大変重みのある論集を発表します。Micrologus という新しめの中世の自然・文化・社会を専門とした雑誌の特集号として登場します。
Barbara Obrist, "Vers une histoire de l'alchimie
medievale." pp. 3-43.
先鋭のオブリスト氏、ここでは、イントロ的に中世錬金術研究の近年の成果を概観します。最近の動向を手っ取り早く知る上で入門編としてお薦めです。
Paola Carusi, "Animalis herbalis naturalis : Considerazioni parallele sul
"De anima in arte alchimiae" attribuito ad Avicenna e sul
"Miftah al-hikma (opera di Apollonio di Tiana)." pp. 45-74.
偽アヴィセンナの錬金術文書の目玉であり、中世ラテン世界への影響が最も大きかったアラビア起源の錬金術文献である『錬金術のアニマについて』とチアナのアポロニウスのモノとされた Meftah al-hikma を比較。
William R. Newman, "The Philosophers' Egg : Theory
and Practice in the Alchemy of Roger Bacon." pp. 75-101.
近年で最も重要であると思われるロジャーベーコンの錬金術プログラムの研究。マスト・アイテム。
Michela Pereira, "Teorie dell'Elixir
nell'alchimia latina medievale." pp. 103-148.
偽ルルス文書の研究第一人者である Pereira 氏の研究はどれも重要ですが。これは、ラテン錬金術における万能薬「エリクシル」理論を知る上で避けては通れない重要文献です。
Chiara Cristiani, "Apetti della transmissione del sapere nell'alchimia
latina." pp. 149-184.
中世ラテン錬金術における「知」の伝達についての考察です。
Antoine
Calvet, "Mutations de l'alchimie medievale au
XVe siecle : apropos des textes authetiques et apocryphes d'Arnaud de
Villeneuve." pp. 185-209.
偽ヴィナノヴァのアルノーの錬金術文書研究の先端をいくカルヴェ氏。ここでは、本物アルノーの医学的著作と偽作の関係を探ります。カルヴェ氏は Chrysopoeia グループのメンバーです。
Guilliana
Camilli, "Scientia mineralis e prolongatio vitae nel Rosarium
philosophorum." pp. 211-225.
『哲学者の薔薇園』
に見られる鉱物科学と長寿の薬の探求のテーマについて。
Didier
Kahn, "Litterature et alchimie au Moyen Age : de
quelques textes alchimiques attribues a Arthur et Merlin." pp. 227-262.
中世の文学と錬金術の関係。アルチュ-ルとメルランに帰されるいくつかの錬金術著作を例に。この人も Chrysopoeia グループのメンバー。
Christian de Merindol, "Jacques Coeur et l'alchimie." pp. 263-278.
Sylvain Matton, "L'influence de l'humanisme sur
la tradition alchimique." pp. 279-345.
錬金術伝統に対するルネサンス人文主義の影響とルネサンス人文主義者の錬金術に対する対応。重要。 この人も Chrysopoeia グル
ープのメンバですー。
Index, pp.356-387.
<<追加>> ところで、この Micrologus と言う雑誌は、第1回の特集で『体についての言説』という特集を組みます。そこにも、数編中世錬金術に関する論文が含まれているので、ここに追加という形でそれを紹介しておきます。
『身体の言説』
V.Pasche et al. (ed.),
I discorsi dei corpi / The Discourses of
Body.
Brepols,
Turnhout (Belgium), 1993. [Micrologus, I]
346pp. + Index ISBN --04200012-9 Price 1800 BF
Barbara Obrist,
"Cosmology and Alchemy in an Illustrated 13th Ccentury alchemical tract :
Constantine of Pisa, "The Book of the Secrets of Alchemy"." pp.
115-160.
中世錬金術文献に稀な宇宙論との絡みについて。
Michela
Pereira, "Un tresoro inestimabile : elixir e
"prolongatio vitae nell'alchimia del '300." pp.161-187.
上記登場した彼女の論文は、やはり1300年代(14世紀)の錬金術文献に見られる「エリクシル」理論に関するものです。
Chiara
Crisciani,
"Il corpo nella tradizione alchemica : teorie, similitudini,
imagini." pp. 189-233.
既に重鎮である
Cristiani 氏、ここでは、錬金術文献に見られる「体」に関するテーマを探求しています。