ルネサンス・バロックの科学・文化・思想
第一巻 フィチーノからデカルトまで
James J. Bono,
The Word of God and the Languages of Man
: Interpreting Nature in Early Modern Science and Medicine,
vol. 1 - Ficino
to Descartes,
Madison, Wisconsin UP, 1995.
Paper Back xi-317pp. ISBN
0-229-14794-0 Price $ 22.95
1981年にハーヴァード大学で『生命の言語- ハーヴィー以前の生命医学におけるジャン・フェルネル(1497-1558)とスピリトゥス』というタイトルの博士論文を書いた著者。このD論はなぜか公刊されず、また、アメリカでの博士論文の複製を一手につかさどるUMIという団体を通しても入手不可能という、ルネサンス医学思想を研究するものにとって超レア・アイテムとなっています。その後、幾つか「スピリトゥス」という概念の歴史について論文が出た後、この著作の発表となります。著者の関心は、スピリトゥスの概念史の研究を通して、その単一の概念の歴史から、近代科学や医学の発展における言語やテクストの意味についてに広がってきているようです。ちなみに、第4章は、基本的に先行発表論文(Bono, 1990)を取り込み直したものです。この分野に関して、これが絶対というディフィニティヴな作品ではありませんが、更なる研究の格好のイントロとして、特に、ルネサンス人の「テクスト重視」のメンタリティを知る上で、その価値は大きいと思います。
1. Introduction :
言葉、テクストそしてナラティヴ The Word,
the Text and the Narrative
2. フィチーノと新プラトン主義的言語理論 Ficino
(1433-1499) and Neoplatonic Theories of Language
3. 「神の御言葉」と「人間の言語」-ルネサンスの文化的ナラティヴ、改革、そして言語理論
The "Word of God" and the
"Language of Man" : Renaissance Cultural Narratives, the Reformation,
and
Theories
of Language
ルネサンスの言語理論の問題 The Problem of Renaissance
Theories of Language
言語理論とルネサンスの文化的ナラティヴ Theories of Language and
Renaissance Cultural Narratives
言語と解釈-解釈学的作戦と科学革命 Language and Interpretation :
Hermeneutic Strategies
and
the Scientific Revolution
4. テクスト優先 - 書物の文化と神の真理の注釈的探求 フェルネル vs ハーヴィー
The
Priority of the Text : Bookish Culture and the Exegetical Search for Divine
Truth (Fernel vs. Harvey)
観察に対するフェルネルの態度 Fernel's Attitudes toward
Observation
フェルネルと改革のアイデア Fernel and the Idea of Reform
フェルネルの医学的スピリトゥスの理論 Theory of Medical Spirits : Fernel
ハーヴィーの医学的スピリトゥスの理論 Theory of Medical Spirits : Harvey
ハーヴィーの生物学的物質の理論 Harvey's Theory of Biological
Matter
5. 「自然の書物」の中における神の記号を読む - パラケルスス主義医学とオカルト自然哲学
(ロイヒリン、パラケルススそしてオズワルド・クロル)
Reading God's Signatures in the Book of Nature : Paracelsian
Medicine and Occult Natural Philosophy
ヨハネス・ロイヒリン Johannes Reuchlin
パラケルスス Paracelsus
オズワルド・クロル Oswald Croll
6. 象徴的注釈から記述へ - 解釈学者、自然誌と記述そしてのガリレオの自然の数学化
From Symbolic Exegesis to Deinscriptive
: Hermeneutics - Natural History and Galileo's Mathematization
of Nature
as
Descriptive
ルネサンスの自然誌
Renaissance Natural History
ガリレオ、数学、そして自然の言語 : 神の「自然の書物」の解読
Galileo,
Mathematics, and the Language of Nature : De-in-scribing God's Book of Nature
7. 言語と科学の改革 −フランシス・ベーコン卿のアダム的改革と自然のアルファベット
The Reform of Language and Science : Sir Francis
Bacon's Adamic Instauration and the Alphabet of
Nature
ジョン・ディー John Dee
フランシス・ベーコン卿 Sir Francis Bacon
(1561-1626)
8. バベルを超えて−メルセンヌ、デカルト、言語、そして魔術に対する反乱
Beyond Babel : Mersenne, Descartes, Language and the
Revolt against Magic
言語と文化的ナラティヴ−ワイヤー、エラストゥス、デル・リオ、そしてルネサンス魔術
Language and Cultural Narratives : Weyer, Erastus, Del Rio and
Renaissance Magic
メルセンヌとデカルト
Mersenne and Descartes
エピローグ
Epilogue
参考文献 Bibliography
索引 Index
J. J. Bono Select
Bibliography
1981. The Language of Life : Jean Fernel (1497-1558) and Spiritus in Pre-Harveyan
Bio-Medical Thought, Ph. D. diss., Harvard Univ.
2002. 06. 06 木 昨日の日記で挙げた J. J. Bono 『生命の言語:ジャン・フェルネルとハーヴェイ以前の生命・医学における精気』 The Language of Life
: Jean Fernel (1497-1558) and Spiritus in Pre-Harveyan Bio-Medical
Thought, Ph. D. diss., Harvard Univ., 1981 という博論ですが、アメリカでもこの時期のものは、UMI を通して買うことは出来ません。公刊もされませんでした。ということで、かなりレアなアイテムです。ワールブルグには、一部あることを
Clericuzio 氏から教えてもらってました。ハーヴェイ以前の生理学史に関心を持つ研究者の間では、未だに重要視されています。まだ読めていませんが、現段階で紹介できることだけ書きましょう。残念なことに、誰が審査員であったかは、記されていません。頁数がやたらと多いのは、いわゆる電話帳型の博論で、ダブル・スペースの大きな文字によるタイピングだからです。現在の学術出版の平均的な版型に凝縮すると、300頁ぐらいかも知れません。全体は、以下のような四部構成になっています。
著者の論文「中世医学における精気理論」 (1984年) は、第2章を主に改変にして出したのかな?と思います。次の論文「フェルネルとハーヴェイ」 (1990年) の方は、第4章を元にしているのでしょう。以前に紹介した著者の本『神の御言葉と人間の言語』(1995年) は、結局のところ後者の論文を取り込み直す形で書かれていますが、博論とは全然違うもののようです。なぜ博論が公刊されなかったかの問題は、取り敢えず置いておきましょう。 |
1984. "Medical Spirits and the Medieval Language of Life", Traditio, 40 (1984), pp. 91- 130.
1990. "Reform and the Languages of Renaissance Theoretical Medicine :
Harvey versus Fernel", Journal of the History of Biology, 23
(1990), pp. 341-387.
1995. The Word of God and the Languages of Man, Madison, Wisconsin Univ.
Press.