『ウシの書』研究のプラットフォーム
ホムンクルスの生成をはじめ、摩訶不思議なアイデアの玉手箱
である中世アラビア魔術の流れをくむ『ウシの書』
Liber vaccae
その本当の姿と影響を研究するためのプラットフォームです。
基本文献
テクスト
偽プラトン『ウシの書』
Ps.-Plato, Liber vaccae
偽アルベルトゥス・マグヌス『世界の驚異について』
Ps.-Albertus
Magnus, De mirabilibus mundi
偽トマス・アクィナス『諸本性の諸本性について』
Ps.-Thomas
Aquinas, De essentiis essentiarum (Venezia, 1488)
研究文献
「プラトンのヘルメス的な『ウシの書』」
David Pingree, “Plato’s Hermetic Book of the Cow,” in Il neoplatonismo nel Rinascimento (Roma: Istituto
della Enciclopedia italiana,
1993), 133-145 = idem, Pathways into the
Ancient Sciences (Philadelphia: American Philosophical Society, 2014),
463-475.
「人工的な悪霊と奇跡」
David Pingree, “Artificial Demons and Miracles,”
Res orientales
13 (2001), 109-122.
ピングリー氏が生前に校訂版を編纂していた『ウシの書』から、内容を要約しています。
「ヘルメスからジャービルと『ウシの書』へ」
David Pingree, “From Hermes to Jabir
and the Book of the Cow,” in Magic and
the Classical Tradition (London: Warburg Institute, 2006), 19-28.
「忌むべき交わり:中世西欧における『ウシの書』、あるいは自然魔術の危険と誘惑」
Maaike van
der Lugt, “Abominable Mixtures: The Liver
vaccae in the Medieval West, or the Dangers and Attractions of Natural
Magic,” Traditio 64 (2009), 229-277.
『「世界の驚異について」、魔術的な伝統と自然哲学のはざまで』
Antonella
Sannino, Il De mirabilibus mundi tra tradizione magica e filosofia naturale
(Firenze: Sismel, 2011).
『修道院における魔術:中世的な宇宙への敬虔な動機、違法な関心、そして秘教的な手法』
Sophie Page,
Magic in Cloister: Pious Motives, Illicit
Interests, and Occult Approaches to the Medieval Universe (Pennsylvania
State University Press, 2013).
とくに第3章は『ウシの書』を中心に扱っています。
「牛とミツバチ:偽プラトン『ウシの書』のアラビア語圏の源泉と類似著作」
Liana Saif,
“The Cow and the Bees: Arabic Sources and Parallels for Pseudo-Plato’s Liber vaccae,” Journal of the Warburg and Courtauld Institutes 79 (2016), 1-47.
日記の記述から
2021. 5. 4 火
コロナ禍で国際郵便荷物が機能しないので、ヨーロッパや日本から本を入手するのをあきらめているのですが、イギリスのブック・デポジトリーという古本屋は、イタリア語の本でも在庫さえあれば、理解可能な送料でアメリカまで送ってくれます。今日は、前から探していた『法の書と霊因の書:錬金術と魔術の2つの黒レシピ集』 Paolo
Scopelliti (ed.), Liber aneguemis/Liber
astutas: due recettari neri di alchimia e magia (Milano: Mimesis, 2018) を無事に入手できました。とくに前者『法の書』は、『ウシの書』のラテン語訳だといわれています。
2020. 9. 7 月
ついにパリの図書館に注文していた偽トマスの著作の複写ができました。連絡メールのリンクから、ダウンロードにも成功。これから秋冬にかけて、じっくりと内容を吟味したいと思います。謎の『ウシの書』とどのくらいの関係があるかが、カギとなります。
2020. 8. 9 日
先週パリに複写を注文した文献は、1週間で作業工程の30パーセントまできているようです。できあがったときにダウンロード先を知らせてくれれば良いのですが、前回に注文したときは完了したことに気がつかず、ダウンロード用のリンクが時間切れで消滅していたので、メールで仔細をつげて特別に手配していただきました。スパム・フィルターにひっかかっていたのかもしれません。
2020. 8. 4 火
昨日のつづきで、これまで読んだ『ウシの書』についての2次文献からメモをとって、基本的な知見を整理しています。それが一通り片付いたら、ジャービルにいきます。
2020. 8. 3 月
つぎの研究計画に関連した2次文献をいろいろと読んでいるうちに、ひとつアイデアを思いつきました。僕がこういうのをやっても良いのかな?という疑問符はつきますが、これまでも普通の人々が無理だと思いがちな問題を、門外漢ながらアタックすることで道を切りひらいてきたわけですから、行けるかも知れません。> ということで、ひらめいたアイデアを中心にして、これまで速読していた参考文献をひとつずつ、じっくりとメモをとり直したいと思います。
2020. 8. 2 日
昨日ニューヨーク市立図書館に注文していた論文「人工的な悪霊と奇跡」 David Pingree, “Artificial Demons and Miracles,”
Res orientales
13 (2001), 109-122 のスキャンが、もう届きました。タイトルには表記されていませんが、ピングリー氏が生前に校訂版を編纂していた『ウシの書』から、この書物の内容を要約しています。この校訂版が出版されなかったのは、本当に残念です。
2020. 8. 1 土
しばしば聖トマス・アクィナスの『存在と本質について』 De
esse et essetia と混同される偽トマス・アクィナスの『諸本質の本質について』 De
essentiis essentiarum は、1488年にヴェネツィアで出版された一版しか知られていない超レアなアイテムです。『ウシの書』の関連で、この本の複写をパリの国立図書館に注文しました。45ユーロでした。1〜3週間ほどで届くということですから、果報は寝て待ちます!
2020. 7. 31 金
コロンビア大学図書館の人力スキャンに注文していた論文「ヘルメスからジャービルと『ウシの書』へ」
David Pingree, “From Hermes to Jabir and the Book of
the Cow,” in Magic and the Classical
Tradition (London: Warburg Institute, 2006), 19-28 が到着したので、早速のところ読みました。短い論文ですが、とても役だちます。『ウシの書』とともに、ジャービルの『バランスの書』が大事だとわかります。このジャービルの書物は、2015年に新しいアラビア語版が出版されているようですが、古くはポール・クラウスのジャービル著作集の第1巻に収録されているようです。近年の研究はあるのでしょうかね?
2020. 7. 30 木
『ピカトリクス』についてのライアナ・サイーフ博士の講演会(というよりは、その打ち上げ)での議論によって弾みがついたので、おもに今年1月におけるBHの日記から『ウシの書』についての記述をあつめて専用頁を開設したいと思っています。少々、お待ちください。
2020. 1. 23 木
ここのところの『ウシの書』の関連で、一連の重要な論文を書いている David
Pingree の既出論文集がネットにアップされていることを見つけました。こちらから無料でダウンロードできます。ただし残念ながら、『ウシの書』についての大事な論文2つ(ウォーバーグ研究所絡み)は収録されていません。版権の都合でしょうか?
さらに、フィレンツェにある『ウシの書』の手稿をおこして伊語訳をつけた本が、どうやら2006年に出ていたのですが、現在では入手不可能となっています。あきらめていたら、2018年に増補版となって出版されていることを見つけました。入手できたらお知らせします。
2020. 1. 18 土
ここのところ連続して出てくる『ウシの書』ですが、偽アルベルトゥスの『世界の驚異について』
De mirabilibus mundi には、『ウシの書』に記述されている多くの実験が採用されているようです。ただし、もっとも重要なホムンクルスについての部分は、残念ながら省略されているとのこと。 研究者たちが気づかなかっただけで、省略された部分が別の手稿などに交じって流布していたこともあるかも知れませんね。
2020. 1. 17 金
昨日までのつづきとして、『修道院における魔術:中世的な宇宙への敬虔な動機、違法な関心、そして秘教的な手法』 Sophie Page, Magic
in Cloister: Pious Motives, Illicit Interests, and Occult Approaches to the
Medieval Universe (Pennsylvania State University Press, 2013) から、『ウシの書』についての第3章を中心に読みました。 これは、なかなか良く書けた入門編だと思います。
2020. 1. 16 木
昨日につづき、今日は中世ヨーロッパにおけるホムンクルスについて議論する論文「忌むべき交わり:中世西欧における『ウシの書』、あるいは自然魔術の危険と誘惑」
Maaike van der Lugt, “Abominable Mixtures: The Liver vaccae in the Medieval West, or the Dangers and Attractions
of Natural Magic,” Traditio 64
(2009), 229-277 を読みました。長いですが、これまた入魂の一本です。
僕の関心は、こうした中世の手稿で展開された議論が、どのように1525年ごろに執筆活動していたパラケルススの著作につながるのかという点です。すでにビルが2006年の名著『プロメテウス的な野心』で基礎的なところを分析していますが、アラビア語圏や中世ヨーロッパでの状況について、その後の研究が進んできています。
偽トマス・アクィナスの『諸本性の諸本性について』 De
essentiis essentiarum という著作が1488年に出版されており、そこに『ウシの書』での議論をうけついだものがあるようです。この著作の PDF が容易に入手できないのは歯がゆいところです。校訂翻訳して欲しいアイテムです。
2020. 1. 15 水
アラビア語圏におけるホムンクルスをあつかった論文「牛とミツバチ:偽プラトン『ウシの書』のアラビア語圏の源泉と類似著作」
Liana Saif, “The Cow and the Bees: Arabic Sources and Parallels for
Pseudo-Plato’s Liber vaccae,” Journal of the Warburg and Courtauld
Institutes 79 (2016), 1-47 を読みました。不慣れな人名や著作名ばかりなので、何度か読みなおさないといけないのですが、とても刺激的な議論です。とくに、後半は補遺として幾つかのテクストの翻訳をとおして類似を示しています。ライアナは、2013年にサンディエゴでのルネサンス学会で初めて出会いました。昨秋は、東京で開催された学会に参加するために来日しています。