BHのアラビア研究入門


アラビカ



 

イスラム教に関係なくアラビア語・アラブ世界で書かれたソース文献の分析

 

 

その2

 

アヴェロエス

 

1.

「形而上学」大注解

 

  M. Bouyges 20年かけて編んだアラビア語校訂版 Tafsir ma ba’d at-tabi’at : Grand commentaire de la Métaphysique d’Aristote, 4vols. Beirut, 1938-1948 からの現代語訳は、現在のところベータ、ゼータ、ラムダの3書について出されています。

 

              ベータの書

Laurence Bauloye, Averroès : Grand commentaire (Tafsīr) de la Métaphysique, livre Bêta, Paris, Vrin, 2002.

 

ゼータの書

Ahmed Elsakhawi, Etude du livre Zāy (Dzêta) de la Métaphysique d’Aristote dans sa version arabe et son commentaire par Averroès, Lille, ANRT, 1994. フランスの博士論文ですが、オンデマンド出版されています。アマゾン・フランス経由で入手可。

 

ラムダの書

Aubert Martin, Averroès : Grand commentaire de la Métaphysique d’Aristote (Tafsīr mā ba‘d at-tabī‘at), livre lam-lambda, Paris, Belles Lettres, 1984.

 

Charles Genequand, Ibn Rushd’s Metaphysics : A Translation with Introduction of Ibn Rushd’s Commentary on Aristotle’s Metaphysics, Book Lām, Leiden, Brill, 1984. 上記の仏訳版と比べるとはるかに劣る内容です。

 

 

 

2.

 

「天空論」大注解

 

ついにアリストテレスの『天空論』への大注解のラテン語訳校訂版が出されました。

 

F. J. Carmody, Averrois commentaria magna in Aristotelem De caelo et mundo, 2 vols, Louvain, Peeters, 2003.

 

 

 

3.

 

「霊魂論」大注解

 

『霊魂論』への大注解のラテン語訳校訂版の復刻+アラビア語版です。

 

S. J. Crawford, Averrois commentarium magnum in Aristotelis De anima libros, Cambridge MA, 1953.

 

Averroès, Grand commentaire sur le traité d’âme d’Aristote, 2 vols, Tunis, Académie tunisienne des sciences, 1997.

vol. 1 = reprint Crawford latin version ; vol. 2, version arabe

 

 

ついに英全訳が出されました。

Averroes, Long Commentary on the De Anima of Aristotle, trans. Richard C. Taylor, New Haven, Yale UP, 2009.

 

 

 

4.

 

医学入門

Colliget

 

2021. 11. 25

アヴェロエスの医学書『コリゲト』Colliget(アラビア語の原著名 Kitāb al-Kullīyāt)は、7巻構成でになっています。それぞれは1)解剖学、2)生理学、3)病理学、4)兆候論、5)食事、6)養生、7)治療をあつかっています。

 

 

2021. 11. 24

哲学者アヴェロエスの医学書『コリゲトColliget についての研究は、あまり進んでいないようです。限定したテーマをあつかう論文がドイツ語とスペイン語で幾つかありますが、単著博論などの規模で内容影響について俯瞰する研究はありません。テクストについても、アラビア語の校訂版と現代のスペイン語訳はありますが、それにつづくものは出ていません。英語や仏語の全訳があれば、状況は変わるのかも知れませんね。

 

アヴィセンナの『医学典範』が歴史的な重要性からアラビア語圏の医学書として注目を集めてきたことで、アヴェロエスの医学書にたいする関心は相対的に低かったのでしょう。哲学者たちもアヴェロエスの霊魂論、そして形而上学自然学に注目してきましたが、彼の医学書にほとんど触れてきませんでした。『コリゲト』はアリストテレス主義の観点からガレノスを批判するもので、興味ぶかい哲学的な議論をふくんでいます。

 

 

2021. 11. 18

昨日までの原稿を読みなおしながら、僕自身のコメントをチェックしました。そういえば、アヴェロエスの医学書のスペイン語全訳をもっていたはずなのですが、どうも見当たりません。BH本館の大陸移動のなかで、紛失してしまったようです。仕方ないので、入手し直すことにしました。

 

 

2009. 10. 11

  アダム君に教えてもらったのですが、アヴェロエスによるアリストテレスの霊魂論への大注解の英全訳がついに出されたようです。600を超えるのに発売記念で定価85ドルがお得な60ドルに抑えられています。この機を逃す訳には行かない気もします。霊魂論に関しては中注解が既に英訳されていますが教科書的なものでしかなく、アヴェロエスの思想が真に展開されるのは大注解においてです。

 

 

2005. 2. 6

  昨日のアヴェロエスの医学書に関して、ノス研の田窪さんが Unilibro というサイトを紹介してくれました。サイトの造りは、スペイン語の苦手な人間にも分かり易い気がします。一方、BHメイトの小澤くんは、より学術書に強い Marcial Pons というサイトを教えてくれました。そこの検索によると、以前に出された『医学的著作集Averroes, Obra medica, Malaga, 1988 も、まだ入手できるみたいです。これは、リェージュにもあるので手にとって見たことあるのですが、ガレノスの幾つかの著作へのアヴェロエスによる注解が手稿で眠っていたものをスペイン語訳した全くの別モノです。何と310頁で12ユーロと格安です。中世後期からルネサンス期の大学医学に触れたいなら前者だけで十分ですが、さらにアヴェロエスの医学のことを深めたいなら、両方を併せ持っている方が良いかも知れません。それでも36ユーロですから、ビックリの値段です。

 

  しかし、こうしてスペイン語で全訳が出ると、Colliget の研究が進むかも知れません。まだ世界的にも本当にごく少数の研究しかありませんので、これからアタックするテーマを探しているスペイン語の出来る人には大きなチャンスの到来です。> ところで、ミーティングでも触れた疑問なのですが、書名 Colliget は何と訳すべきでしょうかね?

 

 

2005. 2. 5

  以前からアヴェロエスの医学書 Colliget の研究や翻訳は少ないなと思っていたのですが、どうやらスペイン語全訳が出たようです。『医学入門El libro de las generalidades de la medicina, Madrid, Trotta, 2003 で、512頁と大冊の割には24ユーロと安価なので入手しようかと思います。ところで、最近アマゾン・フランスでもスペイン語の本を扱うようになったのですが、残念ながらこの本は検索にかかりません。スペイン語の本を入手するには、一体どのサイトが便利でしょうか?BHメイトの田邊さんにでも聞いてみましょう。

 

 


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