普遍史
神話、世界史、聖書
神話や旧約聖書で描かれる原初の世界と人類史における各国の起源をつなげようとした「普遍史」 historia universalis の試みは、ルネサンス期に大きな展開を迎えました。『テクストの擁護者たち』 があげている文献をもとにした、この分野を研究するためのプラット・フォームです。
日本語で何が読めるのか?
岡崎勝世 『聖書
vs 世界史』
(講談社現代新書、1996年)
岡崎勝世 『キリスト教的世界史から科学的世界史へ : ドイツ啓蒙主義歴史学研究』
(勁草書房、2000年)
A・グラフトン 『テクストの擁護者たち:近代ヨーロッパにおける人文学の誕生』
(勁草書房、2015年)
イギリス
Thomas D. Kendrick, British Antiquity (London:
Barnes and Noble, 1950).
Aneurin
L. Owen, The Famous Druids: A Survey of Three Centuries of English
Literature on the Druids (Oxford: Clarendon, 1962).
指昭博 「ブルータス伝説とその継承」 『〈イギリス〉であること:アイデンティティ探求の歴史』 (刀水書房、1999年)。
イタリア
Philip Jacks, The Antiquarian and the Myth of Antiquity: The Origins of Rome in
Renaissance Thought
(Cambridge: Cambridge University Press,
1994)
Eric W. Cochrane, Historians and
Historiography in the Italian Renaissance (Chicago: University of Chicago
Press, 1981), 432-435.
Giovanni Cipriani, Il
mito etrusco nel Rinascimento fiorentino (Firenze: Olschki, 1980).
スペイン
Robert B. Tate,
“Mythology in Spanish Historiography of the Middle Ages and Renaissance,” Hispanic Review 22 (1954), 1-18 = Ensayos sobre la historiografia
peninsular del siglo XV (Madrid: Gredos, 1970), 13-32.
デンマーク
小澤実 「ゴート・ルネサンスとルーン学の成立:デンマークの事例」
『知のミクロコスモス:中世・ルネサンスのインテレクチュアル・ヒストリー』
(中央公論新社、2014年)、69-97頁。
低地地方 (オランダやベルギー)
A・グラフトン
『テクストの擁護者たち:近代ヨーロッパにおける人文学の誕生』
(勁草書房、2014年)、第3章。
ドイツ
Frank Borchardt, German
Antiquity in Renaissance Myth (Baltimore: Johns Hopkins Press, 1970).
フランス
Robert E. Asher, “Myth, Legend and History
in Renaissance France,” Studi francesi 39 (1969), 409-419.
西澤文昭 「十五・十六世紀フランスにおける国家起源論」
『国家と言語:前近代の東アジアと西欧』 (弘文堂、2011年)。
関連書
山田俊弘 『ジオコスモスの変容:デカルトからライプニッツまでの地球論』
(勁草書房、2017年刊行予定)、第7章と第8章。
背景
トニー本に深くかかわった経験から分かったことですが、ガファレルという人物もポステルと同様に、キリスト教カバラやルネサンス・プラトン主義、そして古代神学だけではなく、年代学やルネサンス期に発達したビザールな旧約聖書学の文脈から理解しないといけないのだと思います。
この最後にあげた思潮は、旧約聖書にある記述とギリシア・ローマ以前の人類の古代史をつなごうとした一連の試みが生んだもので、ルネサンス期に大きな展開を迎えました。僕自身も、まだどういう研究があるのか手探りの状態ですが、先行研究をマッピングするコーナーをBH内にいつかつくりたいと思っています。しかし、トニー自身もこの分野に名前をつけていないのですよね。とりあえず、トニーのあげる文献からリスト・アップしてみました。ここでも、小澤君の活躍が光ります。
よくインテレクチュアル・ヒストリー(知の歴史)と思想史の違いを聞かれますが、たとえばこの話題はインテレクチュアル・ヒストリーならではのもので、思想史という言葉ではうまく語れないものだと思います。旧約聖書で描かれる事蹟と各国の先史を結びつけようとする試みは、あきらかに知的な営為ですが、これは思想と呼べるものだと思いますか?
つづきを少し。旧約聖書で語られるノアの大洪水から、ヨーロッパの各国の起源をむかえるまでの期間には、歴史はなかったのでしょうか?いや、あったはずなのです。そう考えたルネサンス人たちは、その歴史をどう記述するか喧々諤々の議論をくり返していました。まだ、バビロニアの粘土板やエジプトのヒエログリフなどが解読される以前の時代に彼らは活躍したのです。
ある種の合理性をよしとする近代的な視点では、これらの人々の知の営為は誤診にもとづいたファンタジーであるとして切り捨てられてしまうでしょう。しかし、そうではなく、この人々の営為がどういう理由ではじまり、どのように行われたのかを位置づけるのが歴史家の役割でしょう。まさに、これはインテレクチュアル・ヒストリー(知の歴史)の舞台となる研究領域であるといえます。
翻訳計画
『普遍史 : 宗教改革からライプニッツまでの聖書と人類史』 (仮題)
本体と注の下訳が終了 2016.09.20
翻訳開始 2014.07.07
2014. 7. 9 水
普遍史についての本の翻訳計画がはじまりました。早速、序文とイントロを訳していただきました。作業のスピードにびっくりです。あんがいすぐに訳せてしまうかもしれません。この本は、メランヒトンからライプニッツまでの普遍史の変遷を扱い、そのあいだに聖書の権威に変化が生じて、世俗化が進むという話だと分かります。
2014. 7. 8 火
ずっと的確な名称がわからなかったのですが、旧約聖書の記述と人類史をつなげようとする営為は、普遍史 historia universalis と呼ばれることがあるようです。
2014. 7. 6 日
トニーのネタ本であろうと思われる、200頁ほどのドイツ語の小著『普遍歴史観の世俗化:16・17世紀における歴史思想の変化ついて』 Adalbert
Klempt, Die Säkularisierung der universalhistorischen
Auffassung: Zum Wandel des Geschichtsgedankens im 16. und 17. Jahrhundert (Göttingen: Musterschmidt, 1960) を見つけました。旧訳聖書に描かれた天地創造からはじまる物語と人類史をつなげようとする試みを、メランヒトンから17世紀後半まで扱っています。ドイツ語が得意な人に見てもらって、行けそうなら翻訳計画を立てたいと思っています。興味ある人はいませんか、自薦・他薦を問いません。連絡いただければ、資料をお渡しします。