自然魔術とカバラ
 
 
 
その19
 
『西欧におけるシンクレティズム − ピコの900の命題(1486):
伝統的宗教哲学体系の変容』
  
S.A.Farmer 編著
Syncretism in the West: Pico's 900 Theses (1486):
The Evolution of Traditional Religious and Philosophical Systems.
Medieval & Renaissance Text and Studies, Arizona, 1998.
ISBN 0866982094
 
 
        これはピコの魔術・カバラ思想を知るための重要書『900の命題』の研究の決定版です。200頁の研究とラテン校訂テクストと英語による見開き対訳で600頁の大冊です。これで、3000円!ですから、BHの関係者は全員買いです。現在のところ邦訳されている『人間の尊厳について』(国文社)の方は、結局のところあまりその方面のことを語ってくれませんが、本書の核となっている『900の命題』は、まさにドンピシャであり、しっかりした版が現れることを長らく待たれていた代物です。しかし、この内容でどうしてこんな価格設定が可能なのでしょうか?ものすごく需要があって、かなりの数を刷っているということなのでしょうか?普通なら6000〜10000円となってもおかしくないものです。何かの間違いではないでしょうか?古書でもここまで値段は落ちないでしょう。だから、価格が変更されないうちに皆さん買うべきです。BHの強力お薦め品です。「ヘルメス通信」(その77)より抜粋。
 
        『900の命題』のテクストを読了した感想は、やはりピコはフィチーノとはだいぶ違うということでした。これは、彼の創世記注解的な『ヘプタプルス』や邦訳もある有名な『人間の尊厳について』を読んだときから感じていたものです。どこが違うかというと、難しいのですが、ピコはあまり自然界に関心を持っていなかったように感じられます。クリステーラー以前のルネサンス哲学史の伝統では、ピコが優先的に取り上げられ、フィチーノはプラトンの単なる翻訳者という位置づけに甘んじていたのですが、自然の事物や星辰については、つまり、科学史に関する分野では、やはりピコではなくフィチーノが大きな鍵を握っていると思えます。日記(2001年5月3日付け記述)より
 
        『900の命題』の解説部では、特に、ピコがそれをローマで公開討論しようとした背景を扱った第1章と魔術論とイェーツ・テーゼの再考の第3章が良かったです。Farmer 氏の面白いところは、それまでのルネサンス哲学史の伝統的な研究のスタイルを超越しようとしているところです。非常に目立つ非西欧思想の伝統との比較の呼びかけや、最新の神経生理学の成果から得られた「記憶術」の弊害に触れるところです。伝統を踏まえた上での逸脱でしょうか?特に、記憶術に関して、丸暗記に近い記憶法に幼いことから馴染むと、オリジナルなアイデアを生みにくい個体が育つという脳生理学的なノートは、何か日本の教育システムの欠点を突くようで、思わず納得してしまいました。普通こういうことを言い出すとすぐキワモノ的な結果になりがちですが、本書は文献学的・歴史学的な手法を貫徹しているので、ま、オマケ程度に流せるものではあります。 日記(2001年5月3日付け記述)より
 
        おお、何という感動!何というスリルとサスペンス!こんな展開が待っているとは夢にも思いませんでした。解説部の第4章は、ものすごいです。まるで、推理小説を読んでいるかのような巧みな議論展開と謎解き。ピコにまつわる謎の多くが見えた気分になります。久しぶりに良いものに出会った気分です。あっぱれ!5つ星をつける事にしました。 日記(2001年5月4日付け記述)より
     
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