古典的なキミアの歴史研究書

  

 

 

20世紀に書かれた「キミア」の一般的な通史研究には

どんなものがあるか?

      
  
キミアの歴史の研究は既に17世紀に始まっていますが、そこから全ての著作を挙げるわけにはいきません。そこで、現在の研究の流れを決定づけているような主に20世紀の古典的名品を執筆年代順にここでは挙げていきましょう。また、通史ではなくてもその後の研究に多大なインパクトを与えた研究も加えておきます。これを追うことで、20世紀の錬金術史研究の大まかな流れが掴めると思います。こうして改めて見ると、本当の意味で全体を押さえているような歴史書は皆無です。本来無理なのかもしれません。

       
Marcellin Berthelot, L'alchimie au Moyan Age. 3vols. Paris, 1893.
本書は、文献学的手法を用いた錬金術史研究の先駆けのような著作で、第1巻では主にゲベル問題に重点をおいています。第2巻はシリア語の錬金術文献、第3巻ではアラビア語の錬金術文献について元の言語とフランス語訳がつけられています。特に重要なのが、中世ラテン錬金術の年代学を試みた第1巻の第2部です。同著者は、ギリシア錬金術の残存する手稿をまとめた Collection des anciens alchimistes Grecs. 3vols. Steinheil, Paris, 1887-1888. の編纂や、その他にも Les origines de l’alchimie. G. Steinheil, Paris, 1885. Introduction a l’etude de la chimie des Anciens et du Moyen Age. Sicences et  des Arts, Paris, 1889. を書いています。
  
Edmund O. von Lippmann, Entstehung und Ausbreitung der Alchemie. Berlin, 1919.
本書は主にギリシア錬金術とギリシア哲学の関係を探求しているのですが、イスラムやラテン錬金術についても言及しています。その後、続編として第2-3巻が発売されていますが、とてもレアなアイテムです。第1巻だけは、ドイツの G.Olms 書店から復刻が出されていて今でも比較的簡単に入手できます。同著者の少し前の著作 Abhandlungen und Vortraege zur Geschichte derNaturwissenschaften. 2 vols. Von Veit, Leipzig, 1906-1913. は、それ以前の論文をまとめた論集ですが、これもレア・アイテムです。
 
Helene Metzger, Les doctrines chimiques en France du début du XVIIe à la fin du XVIIIe siècle. A. Blanchard, Paris, 1923.
ラヴォワジェ以前のフランス化学を通観した発展史観の歴史書です。錬金術と化学を無理やりにでも離そうとする姿勢が一貫して窺えます。20世紀の化学史の伝統に与えた影響は大きいです。
 
John M. Stillman, The Story of Early Chemistry. Appleton, N.Y., 1924.
本書はその後、The Story of Alchemy and Early Chemistry. Dover, New York, 1960. というふうにタイトルが変更されてペーパーバック版で出版されています。
 
Julius Ruska, Tabula Smaragdina : Ein Beitrag zur Geschichte der Hermetischen Literatur. Winter, Heidelberg, 1926.
本書について詳しくは、別項にて解説しました。同著者は、アラビア錬金術に20世紀で最も詳しかった人間です。同著者の『賢者の群れ』の註解版 Turba philosophorum : Ein Beitrag zur Geschichte der Alchemie. (Quellen und Studien zur  Geschichte der Naturwissenschaften und der Medizin, 1), Springer, Berlin, 1931. も記念すべき作品ですが、Springer,  Berlin, 1970. という形で1度復刻されています。
      
Reijer Hooykaas, Het Begrip Element in zijn historisch-wijsgeerige Ontwikkeling. (Ph. D. diss.), Utrecht Univ. , 1933.
本書は、偉大なる歴史家 Hooykaas の未公刊博士論文ですが、近年グローニンゲン大学の H. H. Kubbinga 氏の英訳によって The Concept of Element : Its Historical-Philosophical Development. private publication, 1983 というタイトルで、未公刊ながら専門家の間を流通しています。
 
Arthur John Hopkins, Alchemy : Child of Greek Philosophy. Columbia U. P. , New York, 1934.
錬金術のギリシア哲学との関係をメインテーマにした著作です。現在では、あまり使われていないようです。   
 
Lynn Thorndike, A History of Magic and Experimental Science. vol. 3-4, N.Y., 1934.
全8巻の科学史の通史なのですが別項で説明した通り14世紀を対象とした3巻15世紀を対象とした4巻は、中世錬金術に割かれた章で一杯です。これを集めると、量・質ともに優れて立派な中世錬金術の本になります。
  
John Read, Prelude to Chemistry : An Outline of Alchemy, its Literature and Relationships. London, 1936,
これは、あまり歴史的なアプローチを取っていないのですが有名なので入れておきます。その後、1度 M. I. T. Pr. , Cambridge (Mass. ) から1966年に復刻されています。その他にも Through Alchemy to Chemistry : A Procession of Ideas & Personalities. G. Bell and Sons, London, 1957. (第2増補版 Harper, New York, 1961), 等を書いています。
    
W. Ganzenmueller, Die Alchemie im Mittelalter. Paederboorn, 1938.
本書は、L’alchimie au Moyen Age. Aubier, Paris, 1938. というフランス語訳も出されています。中世ラテン錬金術に絞った小品です。同著者の論文を集めた論集が Beitraege zur Geschichte der Technologie und der Alchemie. Chemie, Weinheim, 1956. と題されて出版されています。
   
Paul Kraus, Jabir ibn Hayyan : Contribution a l’histoire des idees scientifiques dans l’Islam. t. 2, Jabir et la science grecque. in Memoires presentes a l’institut d’Egypte, t. 45, Caire, 1942.
ジャービル問題に最も鋭いメスを入れた研学の書。現在は、Paris, Belles Lettres 書店から1986年に復刻されています。偉大なる Julius Ruska の弟子にあたります。
 
F. S. Taylor, The Alchemists : Founders of Modern Chemistry. New York, 1949.
本書は、『錬金術師』(人文書院、1978年)という題で邦訳されているのでお馴染みだと思います。
    
E. J. Holmyard, Alchemy. Penguin, Harmondsworth, 1957.
ごく最近『錬金術の歴史』(朝倉書店、1996年)というタイトルで邦訳されました。これもどちらかと言えば小品です。最も詳しいのがアラビアの錬金術です。残念ながら本書は、一般向けの著作で日本で言うところの「新書版」程度のものなのです。
   
J. R. Partington, A History of Chemistry. 3 vols. Macmillan, London. (t. 2, 1961 ; t.3, 1962 ; t. 1, pt. 1, 1970).
残念ながら中世のアラビア・ラテン世界の錬金術を取り扱うはずになっていた第1巻の第2部は完成されることがありませんでした。第1巻第1部は、ギリシアおよび古代の化学に、第2巻は16世紀からブールハーヴェまで、第3巻は17世紀フランス化学からドールトンまで扱っています。書誌データが豊富です。  
    
Robert P. Multhauf, The Origins of Chemistry. Oldbourne, London, 1966.
これは非常に野心的な力作で、基本文献中の基本です。化学史の通史を書こうとしている専門家がこれを読んでいないのは罪だと思います。
   
Jack Lindsay, The Origins of Alchemy in Graeco-Roman Egypt. F. Muller, London, 1970.
ヘレニズム時代のエジプトはアレクサンドリアに起こった西の錬金術の通史です。ヘルメスからゾシモスまで。この分野の基本文献です。    
   
Allen G. Debus, The Chemical Philosophy. 2vols. N.Y. , 1977.
ついに本邦でも翻訳出版された Debus 氏のマスターピース。この著作によって、ルネサンスから17世紀のキミアの全貌が初めて見えてきました。同著者の以下の二つの著作も本書をより良く理解する上で重要です。The English Paracelsians. London, 1965. そして、 The French Paracelsians. Cambridge, 1991.
 
Robert Halleux, Les textes alchimiques. Brepols, Trunhout, 1979.
1980
年代以降の中世ラテン錬金術の歴史研究の教科書となってしまったのが本書です。ディーバスの著作を読んだことのない化学史家も罪ですが、本書の存在自体知らない専門家も同罪です。ディーバスがほとんど扱っていないラテン中世が基本的なスコープになっています。
 
 
これ以降は、ポスト・ディーバス時代の重要文献と新刊案内および総合文献案内を参照してください。

 
 

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