総合文献案内
その13
『17世紀の錬金術伝統の諸相』
Frank Greiner (ed.),
Aspects de la tradition alchimique au
XVIIe siecle.
Actes du colloque international de
l'Universite de Reims (28-29 nov. 1996).
SEHA, Paris - Arche, Milano, 1998.
17cm*24cm 518pp.
ISBN 88-7252-190-4 Price 250 FF
1996年11月に北フランスは ランス大学で行われた国際学会での発表を集めた論集です。編集人のフランク・グレイナー氏は、『フランス・ルネサンスの晩秋(1583-1646)における錬金術伝統と文学的美学』 (Tradition alchimique et
esthetique litteraire a l'automne de la Renaissance francaise (1583-1646). Ph. D. diss. , Universite
Paris X, 1995) という博士論文を1995年にパリ第10大学で書いたばかりの若手です。([流言飛語] ちなみにこの論文はパリの Champion 書店から公刊されることになっていると聞いているのですが、今のところまだ出ていません。)氏の研究は科学史というよりは、ルネサンス期末期に盛んになる「錬金術文学」のテーマや記述形態についての特徴を研究したものです。この論集でもそう言う観点も如実に反映した作りになっています。五部構成になっていて、それぞれは、(1)エピステモロジーとしての問題点、(2)科学・学説史的問題、(3)語り口と文学的問題、(4)視覚芸術的問題、(5)宗教的諸相と題されています。
1) Questions epistemologiques エピステモロジー的な問題点
Jean-Marc Mandosio, "Aspects de
l'alchimie dans les classifications des sciences et des arts au XVIIe
siecle." pp. 19-61.
「17世紀の科学と技芸分類中における錬金術の位置付けについて」
ルネサンス期における同一テーマを扱った先行論文の続編となります。17世紀人は、キミア(錬金術-化学)を学問としてどういう位置付けを一般にしていたのでしょうか?
Jean-Charles Darmon, "Quelques enjeux epistemologiques de la querelle
entre Gassendi et Fludd : les clairs-obscurs de l'ame du monde." pp.
63-84.
「ガッサンディとフラッドの論争におけるいくつかのエピステモロジー的駆け引き : 世界霊魂の明(明解)と暗(難解)」
フラッドと論争中のメルセンヌ神父から応援を依頼されたガッサンディ。彼がフラッド反駁のために特に意を留めたのが、「世界霊魂」の概念の問題でした。この点を中心に議論を追いかけています。
2) Histoire des sciences et des doctrines 科学・学説史的問題
Bernard Joly, "De l'alchimie a la chimie : le
developpement des "Cours de chymie" au XVIIe siecle en France."
pp. 85-94.
「錬金術から化学へ :17世紀フランスにおける『化学の講義』の発展」
最近またにわかに注目されつつある「キミアの講義」という17世紀のフランスにおける化学の教科書の伝統についての研究。特に、その類では最初のもののひとつであるエティエンヌ・ドゥ・クラーヴ Etienne de Clave の著作の成立のバックグラウンドを探っています。小品ですが重要です。
Jean-Francois Maillard, "Descartes et l'alchimie : une tentation conjuree
?" pp. 95-109.
「デカルトと錬金術 :避けられた企て?」
最近の17世紀のフランスの化学史研究においてデカルトの化学との関わり合いが注目を集めています。上記のジョリー氏の著作 『デカルトと化学』 も近刊予定です。この論集では、この論文と次の論文が、デカルトの化学をメインテーマにしています。このテーマは、長年歴史家によって省みられなかったものなので、この3本はマストアイテムです。
Sylvain Matton, "Cartesianisme et alchimie : a
propos d'un temoignage ignore sur les travaux alchimiques de Descartes. Avec
une note sur Descartes et Gomez Pereira." pp. 111-184.
「デカルト主義と錬金術 :デカルトの錬金術活動についての忘れられた証言について。デカルトとゴメス・ペレイラについての註とともに」
この論集の核となる広大な論文です。いつものマットン節で延々と長い引用の原文と翻訳、そして補遺・付録が続きます。細かい描写の好きな人にはもってこいです。
Antonio Clericuzio, "Alchimie et theorie de
la matiere au XVIIe siecle : Francis Bacon et Robert Boyle." pp. 185-191.
「フランシス・ベーコンとロバート・ボイル : 17世紀の錬金術と物質の理論」
小品ですが、これがまた重要な、クレリキュッチオ氏の近作の一つです。ガッサンディとボイルの関係に迫った別の論文と対をなすもので、双方ともフランス語での出版です。こういうのって侮れません。
Jacques Halbronn, "Les resurgences du savoir astrologique au sein des
textes alchimiques dans la France du XVIIe siecle." pp. 193-205.
「17世紀フランスにおける錬金術テクストにおける占星術的な知の復活」
この論文は、錬金術と占星術の関係についてバジル・ヴァレンティンに帰される著作を中心に探求したJ.テーレ氏の重要論文に呼応するもので、特にフランスのパラケルスス主義者クロード・ダリオ Claude Dariot の著作を絡めています。
3) Langage et litterature 語り口と文学的問題
Frank Greiner, "Art du feu, art du secret : obscurite et esoterisme dans
les ecrits alchimiques de l'age baroque." pp. 207-231.
「火の技、秘密の技 :バロック時代の錬金術のテクストにおける不明瞭とエソテリスム」
論集編者のグレイナー氏の論文。文学史の手法で17世紀の錬金術テクストの主要なモチーフを探求しています。
Florence Dumora, "L'oeuvre au noir de Morphee : Poetique du songe
alchimique." pp. 233-259.
「モルフェウスの黒の過程 :錬金術的夢想の詩性」
Anne Larue, "Theatre et alchimie." pp. 261-273.
「演劇と錬金術」
歴史的には、17世紀の演劇には、しばしば、錬金術師が登場したり、錬金術的なモチーフを舞台の展開に利用したりすることがありました。まだまだ真面目な研究が殆どなされていない分野です。
4) Arts visuels 視覚芸術的問題
Pierre Laszlo, "Sur quelques emblemes allemands." pp. 278-285.
「いくつかのドイツの錬金術的エンブレムについて」
Mino Gabriele, "Le Caravage et les quatre elements." pp. 287-294.
「ル・カラヴァージュと4大元素」
画家ル・カラヴァージュの作品における錬金術的モチーフについて
Didier Kahn, "Alchimie et architecture : de la pyramide a l'eglise
alchimique." pp. 295-335.
「錬金術と建築 : ピラミッドから錬金術的教会まで」
クリソペア代表のカーン氏の作品です。かなり重厚な出来。
Jean-Pierre Neraudau, "L'appartement des bains au chateau de Versailles,
ou l'improbable symbolisme alchimique." pp. 337-346.
「ヴェルサイユ城の風呂、あるいは疑わしい錬金術的なシンボリスム」
5) Aspects religieux 宗教的諸相
Alain Mothu, "L'evangile paracelsien du sieur Parisot." pp. 347-382.
「パリゾ卿のパラケルスス主義的福音」
「魂の蒸留」や「思惟の物質的探求」などのフランス初期マテリアリスムと錬金術の関係を探求する大胆にしてオリジナリティに富む研究を発表しているモチュ氏。ここでは、1670年代末の宮廷付きのパリゾの著作における錬金術的モチーフについて。
Sylvain Matton, "Les theologiens de la Campagnie
de Jesus et l'alchimie." pp. 383-501.
「イエズス会の神学者と錬金術」
もう一つのマットン節。これも甚大な論文です。もともとは Baldwin 氏の有名な論文がその出発点であると筆者自身が確認しています。 pp. 429-501 は、資料編にあてられています。イエズス会と錬金術の問題は、以降この論文を避けて通れない状況となりました。
Index pp. 503-516.