古代神学の研究プラットフォーム

 



 

 

 

「古代神学」 prisca theologia とは、モーセやゾロアスター、ヘルメス、オルフェウスなどの太古の伝説的な賢人から、ピュタゴラスやソクラテス、プラトンなどの古代ギリシア・ローマの哲学者たちを経由して、イエス・キリストまで真の英知が連綿とつながっており、こうした「神学者」たちが「異口同音」に神と人間についての「同一の真理」を「異なる表現」で語っていたという信念です。古代末期ギリシア語圏のキリスト教父たちが、古代ギリシア・ローマの学問を吸収するときに使われたものが原型となりましたが、ルネサンス期にプレトンやフィチーノによって復活し、ルネサンス・プラトン主義の伝統のなかで展開するとともに、人文主義の運動を支える原動力ともなりました。たとえば、デモクリトスの古代神学的な神聖化は原子論の復活にも大きなインパクトを与えました。(20083月初稿、20226月改稿)

 

イタリア・ルネサンスを代表する哲学者フィチーノによれば、カルデア人のゾロアスター、エジプト人のヘルメス、ギリシア人のオルフェウスといった太古の人々は自然界を支配する神について語った 「神学者」 であり、こうした古代の神学者たちの教えはキリスト教の開祖イエスの到来をつげる大事な前触れでした。信心ぶかい当時のキリスト教徒たちが、魔術師ヘルメスや哲学者プラトンの手による書物を 「神々しいもの」 として受けとることができたのは、まさにこうした考えに後押しされたからでした。きわめてキリスト教的な社会のなかで育った人々が、これらの「古代神学者」たちが書いたとされる作品にある多彩なイメージやアイデアを積極的にとりこむことで、ルネサンス期には豊かな芸術や文化が生まれたのです。ヘルメスやプラトンと同様に文芸や音楽に影響を与える 「預言者シビュラ」 も、この古代神学者たちの系譜のなかにおくことで、よりよく理解することができるでしょう。(201511月増補)

 

 

 

基本文献

 

A. 日本語で何が読めるのか?

 

ウォーカー『古代神学』(平凡社、1994年)。

基本中の基本。

 

伊藤博明『神々の再生 (東京書籍、1996年:講談社学術文庫、2012年)、第6章。

これも外せません。

 

イェイツ ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス教の伝統 (工作舎、2010年)

こちらは参考程度に。

 

グラフトン テクストの擁護者たち:近代ヨーロッパの人文学の起源 (勁草書房、2015年)、第3章から第6章。

トニーはあまり古代神学に好意的ではないですが、参考になります。

 

 

 

 

B. 代表的な欧文の研究文献

 

Charles B. Schmitt, “Perennial Philosophy from Agostino Steuco to Leibniz,” Journal of the History of Ideas 27 (1966), 505-532.

「ステウコからライプニッツまでの永遠哲学」

草分け的な論文ですが、古代神学よりも永遠哲学が重視されています。

 

Charles B. Schmitt, Prisca Theologia e Philosophia Perennis: due temi del Rinascimento italiano e la loro fortuna,” in Il pensiero italiano del Rinascimento e il tempo nostro, ed. Giovannangiola Tarugi (Florence: Olschki, 1970), 211-236.

「古代神学と永遠哲学:イタリア・ルネサンスの二大テーマとその影響」

古代神学という用語がタイトルに出てきました。

 

Daniel P. Walker, The Ancient Theology: Studies in Christian Platonism from the Fifteenth to the Eighteenth Century (London: Duckworth, 1972).

『古代神学』。上掲の邦訳版を参照。

 

Cesare Vasoli, “L’idea della prisca sapientia in Francesco Patrizi,” in Roma e l’antico nell’arte e nell cultura del Cinquecento, ed. Marcello Fagiolo (Roma: Trecanni, 1985), 41-56.

「パトリツィにおける古代叡智の考え」

古代神学についてのヴァゾーリ師による初期の論考です。

 

Sebastiano Gentile, “Giano Lascaris, Germain de Ganey e la prisca theologia in Francia,” Rinascimento 26 (1986), 51-76.

「ラスカリス、ガネイのジェルマン、そしてフランスにおける古代神学」

ウォーカーの著作から刺激をうけて、フランスにおける古代神学の受容に特化した論文です。

 

Maria Muccillo, “La prisca theologia nel De perenni philosophia di Agostino Steuco,” Rinascimento 28 (1988), 41-111.

「ステウコ『永遠哲学について』における古代神学」

ステウコの古代神学に特化した論文です。下記の著作(1996年)に再録されています。

 

Maria Muccillo, “Luca Gaurico: astrologia e prisca theologia,” Nouvelles de la République des lettres [10].2 (1990), 21-44.

「ガウリーコ:占星術と古代神学」

ルネサンス期の占星術師ガウリーコの場合。

 

Miguel Á. Granada, “Giordano Bruno e l’interpretazione della tradizione filosofica: l’aristotelismo e il cristianesimo di fronte all’antiqua vera filosofia,” in L’interpretazione nei secoli XVI e XVII, ed. Guido Canziani and Yves Charles Zarka (Milan: Angeli, 1993), 59-82.

「ジョルダーノ・ブルーノと哲学伝統の解釈:古代の真の哲学にたいするアリストテレス主義とキリスト教」

ブルーノに特化した論文です。

 

Cesare Vasoli, “Dalla pace religiosa alla prisca theologia,” in Firenze e il concilio del 1493, ed. Paolo Viti (Florence: Olschki, 1994), I: 3-25.

「宗教的な平和から古代神学へ」

現代のウェルギリウスと呼ばれたルネサンス学の泰斗がまとめた論考です。重要。

 

Maria Muccillo, Platonismo, ermetismo e prisca theologia (Florence: Olschki, 1996).

「プラトン主義、ヘルメス主義、古代神学」

上記の論文(1988年)を再録した感もつよいです。

 

Michael J.B. Allen, “Golden Wits, Zoroaster and the Revival of Plato,” in idem, Synoptic Art: Marsilio Ficino on the History of Platonic Interpretation (Firenze: Olschki, 1998), 1-49.

「黄金の機知、ゾロアスター、プラトンの復活」

タイトルに古代神学と入っていないので分り難いですが、フィチーノがヘルメスよりもゾロアスターを重視したことに焦点をあわせた古代神学についての論文です。

 

Cesare Vasoli, “Il mito dei prisci theologi come ideologia della renovatio,” in idem, Quasi sit Deus: studi su Marsilio Ficino (Lecce: Conte, 1999), 11-50.

「改革のイデオロギーとしての古代神学の伝説」

この長尺の論文が決定版的なものとなっています。重要。

 

Cesare Vasoli, “Da Giorgio Gemisto a Ficino: nascita e metamorfosi della prisca theologia,” in Miscellanea di studi in onore di Claudio Varese, ed. G.C. Baiardi (Roma: Vecchiarelli, 2001), 787-800.

「プレトンからフィチーノまで:古代神学の誕生と変容」

フィチーノにいたるまでのイタリアでの初期の展開をあつかった論文です。

 

Moshe Idel, “Prisca theologia in Marsilio Ficino and in Some Jewish Treatments,” in Marsilio Ficino: His Theology, His Philosophy and His Legacy, ed. Michael J. B. Allen & Valery Rees (Leiden: Brill, 2002), 137-158.

「マルシリオ・フィチーノと幾人かのユダヤ人の著作における古代神学」

 

Wilhelm Schmidt-Biggemann, Philosophia perennis: Historical Outlines of Western Spirituality in Ancient, Medieval and Early Modern Thought (Dordrecht: Springer, 2004).

『永遠哲学:古代、中世、初期近代における西欧霊性の歴史的な流れ』

古代から初期近代までの長いスパンで永遠哲学をあつかったものですが、古代神学への言及にも溢れています。

 

Martin Mulsow, “Ambiguities of the prisca sapientia in Late Renaissance Humanism,” Journal of the History of Ideas 65 (2004), 1-13.

「ルネサンス末期の人文主義における古代叡智の曖昧さ」

短すぎる気がします。

 

Hiro Hirai, “Prisca Theologia and Neoplatonic Reading of Hippocrates in Fernel, Cardano and Gemma,” in Cornelius Gemma (1535-1578): Medicine, Cosmology and Natural Philosophy in Renaissance Louvain, ed. Hiro Hirai (Rome: Serra, 2008), 91-104, repr. in Medical Humanism and Natural Philosophy: Renaissance Debates on Matter, Life and the Soul (Leiden: Brill, 2011), 104-122.

「フェルネル、カルダーノ、ゲマにおける古代神学とプラトン主義的なヒポクラテスの解釈」 

古代神学におけるヒポクラテスについて。

 

Hiro Hirai, “L’âme du monde chez Juste Lipse entre théologie cosmique romaine et prisca theologia renaissante,” Revue des sciences philosophiques et théologiques 93 (2009), 251-273.

「リプシウスにおける世界霊魂:ローマの宇宙神学とルネサンスの古代神学のはざまで」

入魂作です。ストア復興における古代神学の役割。英語版(2011年)もあります。

 

Robin B. Barnes, “The prisca theologia and Lutheran Confessional Identity c. 1600: Johannes Jessen and His Zoroaster,” in Spätrenaissance-Philosophie in Deutschland 1570-1650, ed. Martin Mulsow (Tubingen: Niemeyer, 2009), 43-55.

「古代神学とルター派信仰の本性:ヨハネス・イエセンと『ゾロアスター』」

ルター派における古代神学をヴィッテンベルク大学のイエセンについて分析した論文です。

 

Kuni Sakamoto, “Creation, the Trinity and prisca theologia in Julius Caesar Scaliger,” Journal of the Warburg and Courtauld Institutes 73 (2010), 195-207.

「スカリゲルにおける天地創造、三位一体、そして古代神学」

われらがクニ君によるスカリゲルに特化した論文です。

 

Hiro Hirai, “Lipsius on the World-Soul between Roman Cosmic Theology and Renaissance Prisca Theologia,” in Justus Lipsius and Natural Philosophy, ed. Hiro Hirai & Jan Papy (Brussels: Royal Academy of Belgium, 2011), 63-79.

リプシウスにおける世界霊魂:ローマの宇宙神学とルネサンスの古代神学のはざまで」

上記の論文(2009年)の英語版です。

 

Ovanes Akopyan, “Giovanni (or Gianfrancesco?) Pico della Mirandola versus prisca sapientia,” Accademia 19 (2016), 75-93.

「ジョヴァン(あるいはジャンフランチェスコ)ピコと古代叡智」

後期のピコ(あるいは、その編者の甥ジャンフランチェスコ)は古代神学に批判的で、キリスト教との差異に注意を払っているといわれています。

 

 

 

 

 

日記の記述から

 

2022. 6. 16

良い機会ですから、古代神学の頁を7ぶりに改訂増補しました。前回は音楽史家の斉藤さんと「シビュラの預言と古代神学」というイヴェントを開催したときに手を入れています。この大成功だったイヴェントの模様は、いまでもBHチャンネルのサポーター会員だけが観ることができます!

 

ついでに古代神学についての日記の記述をさかのぼろうとして、20にわたる日記をすべてPDFしたら、4000近くになりました。しかも、2012年にメルマガをはじめる以前の熱量たるや!古代から初期近代についてまで、毎日毎日ものすごい情報量です。やはり作業日誌というかたちで、そっくりまるごと本にしてくれる出版社はないでしょうかね?

 

 

2022. 6. 15

プレトンにおける古代神学を扱った論文「フィチーノ以前のプラトン・アリストテレス論争における古代神学John Monfasani, “Prisca theologia in the Plato-Aristotle Controversy before Ficino,” in idem, Renaissance Humanism from Middle Ages to Modern Times (Aldershot: Ashgate, 2015) を読んでいたら、イスラム世界のプラトン主義者スフラワルディとイタリア・ルネサンスのプラトン主義者フィチーノにつながりがあり、その媒介がプレトンだったと考えている人たちが幾人かいることを知りました。

 

とくに『ヘルメス文書』よりも『カルデア人の神託』を重視し、ゾロアスターが『カルデア人の神託』の著者であり、ヘルメスよりも重視だと考えたところに、プレトンの特異性があることが知られています。たしかにスフラワルディその人、あるいは彼の属していた潮流にプレトンが触れていた可能性はあるでしょうが、ギリシア末期のプロクロスのような人のテクストがソースだった気もします。

 

 

2021. 2. 24 

ベルリンのジェイムスに、アニマ・ムンディ論文のための校正指示を送りだしました。索引にひろって欲しい用語のリストも提出しました。お願いしたのは、古代神学 ancient theology、原子 atom、気息 breath、キリスト教 Christianity、粒子 corpuscle、熱 heat、光 light、聖霊 Holy Spirit、精気 spirit です。

 

 

2018. 11. 8 

  古代神学の流れで、ずっと探していた本を入手しました。『月神の都市:ハラーンの宗教的な伝統 Tamara Green, The City of the Moon God: Religious Traditions of Harran (Brill, 1992) です。以前にシンプリキオスを調べていて、謎の都市ハラーンについての研究を読んだことを、この日記にも書きました。もともと異教の栄えた辺境の都市にギリシアの文化が届き、そこでミックスされたものがアラビア世界に流れこんでいくという重要経路の話です。アル・キンディやアブ・マアシャル、タビト・イブン・クッラなどが登場し、アラビア伝統における占星術ヘルメス主義の起源についても議論している楽しい本。最近になって電子版が出ていたようです。

 

 

2018. 3. 7 

  今回の僕の発表にとって、もっとも決定的な部分で、カンパネッラはフィチーノのプロティノス注解にどっぷりと浸かりつつ議論を展開していることを見出しました。キリスト教にも馴染みやすいプラトン主義的に再解釈することで、彼はまったく正反対のベクトルをもつテレジオの自然哲学を擁護しようとしたのです。なんとなくアーギュメントの骨子がみえてきました!

 

  いわゆる「最初の近代人」としてではなく、「最後の古代人」あるいはその正統な継承者として、テレジオを擁護しようとしているのです。この古代人の系譜というは、カンパネッラの場合にはモーセヘルメスをふくむ古代神学者たちということになります。熱いなあ!

 

 

2016. 3. 4 

  年末のトークショーでは、古代神学についてかなりディープな話をしました。今月のメルマガは、その後半部の文字起こしです。なかなか刺激的な話題が展開されていていると思います。よろしく、どうぞ!

 

 

2016. 3. 3 

  朝にアダム君と交信しました。そこで、「ついにインテレクチュアル・ヒストリー思想史の違いが理解できました」という衝撃の告白を受けました。その直後にオキ君がオフィスに来たので、この会話は持ちこしとなり、そのあとはオキ君とクリステーラーについてなどいろいろ話をしました。

 

  中世の哲学者ロジャー・ベイコンは、アリストテレスが三位一体の謎を語っていたと主張しているようで、ルネサンス期にはギリシア出身のトレビゾンドも似たような主張をしています。その根拠となるロキが、『天空論 1.1 と『問題集 26.9 です。とくに『天空論』にかんしては、クニ君の論文でもアダム君の博論でも議論されていなかったような気がします。どうでしょうね?ある種の古代神学者としてのアリストテレス像というのは、すでにロジャーの時代にはあったのかも知れません。

 

 

2016. 2. 29 

  午後にデュッセルドルフから帰ってきて、まずは次号のメルマガを書いてドロップしました。今回は、昨年末に古楽研究家の斉藤基史さんとおこなったトークショー 『ルネサンスの音楽と知のコスモス: シビュラの預言と古代神学』 から、後半の質疑をもとにしたフリー・トークの部分を文字起こししました。なかなかディープなことを一般の人たちの前で話していたのだなと改めて思いました。あの日は本当に楽しかったですね。配信は32となります。

 

 

2015. 12. 30 

  そろそろメルマガの準備をしないといけません。今回はなににしましょうか?すこし考えます。> 記録用に撮った年末トークショーの動画から、古代神学シビュラの預言の関係について説明した部分を文字起こしして、ドロップしました。12の配信です。お楽しみに!

 

 

2015. 12. 28 

  昨日のイヴェントでは、斉藤さんが引きだしの多い方で人前でのトークにも慣れていて、とてもスムーズかつ広がりのある話ができたと思います。今年一番の会心のできでした。これをもとに本をつくりたいと思いました。美しい挿絵入りの音楽手稿を多数ふくんだ150頁くらいの小著が良いでしょう。ちょうどこれから出る 『ボッティチェリ 《プリマヴェラ》 の謎』 が良いモデルになるのではないでしょうか?

 

 

2015. 12. 27 

  今日は14時から新大久保で、今年最後の公式イヴェントがあります。古楽研究家の斉藤基史さんとの年末トーク 『ルネサンスの音楽と知のコスモス:シビュラの預言と古代神学』 です。偽書『シビュラの預言』が『カルデア人の神託』や『ヘルメス文書』とともに、どのようにフィチーノを中心とするルネサンス人たちに受け入れられたのかについて話をします。お楽しみに!

 

 

2015. 12. 25 

  今日はスローな動きで、27日(日)のトーク・イヴェント シビュラの預言と古代神学 のためのパワポの準備をします。フィチーノをメインに据えて、ルネサンス期における『ヘルメス文書』や『カルデア人の神託』の受容について話をします。

 

 

2015. 11. 28 

  今回のサンフランシスコでの科学史学会では、1冊だけ本を入手しました。『エジプトのエディプス:キルヒャーと古代の秘密Daniel StolzenbergEgyptian Oedipus: Athanasius Kircher and the Secrets of Antiquity (Chicago: Chicago University Press, 2013) のペイパーバック版です。古代神学という考えを見るうえで、なかなか良さそうな一冊です。

 

 

2015. 11. 17 

  1227日(日)14時から、古楽研究家の斉藤基史さんと開催する年末トーク 『ルネサンスの音楽と知のコスモス:シビュラの預言と古代神学』のために、古代神学について少し説明しておきます。> 別に会費が必要ですが、当日はイヴェントのあとに打ち上げとして、美味しいチュニジア料理を食べにいきます。クスクスにヒツジ!興味ある人はお早めにご連絡ください。

 

イタリア・ルネサンスを代表する哲学者マルシリオ・フィチーノ (1433-1499) によれば、カルデア人のゾロアスター、エジプト人のヘルメス、ギリシア人のオルフェウスといった太古の人々は自然界を支配する神について語った 「神学者」 であり、こうした古代の神学者たちの教えはキリスト教の開祖イエスの到来をつげる大事な前触れでした。信心ぶかい当時のキリスト教徒たちが、魔術師ヘルメスや哲学者プラトンの手による書物を 「神々しいもの」 として受けとることができたのは、まさにこうした考えに後押しされたからでした。きわめてキリスト教的な社会のなかで育った人々が、これらの「古代神学者たち」が書いたとされる作品にある多彩なイメージやアイデアを積極的にとりこむことで、ルネサンス期には豊かな芸術や文化が生まれたのです。ヘルメスやプラトンと同様に文芸や音楽に影響を与える 「預言者シビュラ」 も、この古代神学者たちの系譜のなかにおくことで、よりよく理解することができるでしょう。今回のトークでは、この幻想と神秘に満ちた女性についてお話ししたいと思います。

 

 

2015. 10. 20

  古楽研究家の斉藤基史さんと 『ルネサンスの音楽と知のコスモス: シビュラの預言と古代神学』 というトーク・イヴェントを年末の1227日(日)の午後に開催する方向で調整しています。昨夜にポストした告知へのリアクションは良い感じです。個人的にはシビュラの画像をとても気に入っています。なおシビュラについては、『テクストの擁護者たち』の6をご覧ください。その関連で調べているうちに、『シビュラの託宣』の邦語訳があることを知りました。『聖書外典偽典』シリーズの第3巻にあたる『旧約偽典 1』(教文館、1975年)です。トーク・イヴェントの前にオンライン読書会を開催するのは日程的に厳しいかもしれませんが、なんとかテクストを入手したいと思っています。

 

 

2015. 8. 29

  さあ、トークショー 『ルネサンス、古楽、知のコスモス』 の当日です。16時過ぎにカワゴエを出て、町田に向かいました。開始1時間前の18時について、すこしソリッド&リキッドを見ていると登壇者の『珈琲と吟遊詩人』の木村さんを見かけました。案内されて事務所にいくと、『古楽かふぇ』のわさんも到着していました。司会者のノビ―さんにも挨拶しました。

 

  木村さんがルネサンス音楽について語り、それをもとにわさんが音源を紹介。そのあとに僕が天球のハルモニアについて紹介するという流れとすることにしました。時間が足りないかなとも心配しましたが、トークショーは順調に進行し、予定の2時間もあっという間に過ぎてしまいました。ちょっと質疑の時間が足りなかったかと思いますが、それはよくあることです。終了の時間が21と遅かったので心配しましたが、そのまま参加者の14人で近くの居酒屋で打ち上げをしました。帰りは、古楽研究家の斉藤さんと一緒でした。いろいろな話ができて良かったです。

 

  斉藤さんが古代神学について関心があるということで、年末になにか一緒にすることにしました。ディープな会となるでしょう。

 

 

2104. 11. 15

  いま漠然と考えているのは、ルネサンス期に普遍史というかたちで展開した古代世界についての歴史観と、古代神学の考えや哲学諸派の展開を関連させたビザールな世界を記述できたら、楽しいだろうなということです。僕のリプシウス論文でも、古代のストア派が現代の解釈とはまったく異なるかたちで理解されることを描いたわけですが、さらに一歩踏み込んだものです。

 

 

2014. 5. 28

  昨日につづいて、ガファレル論集のために2本目の論考を編集しました。シルヴィにくらべて、このフレデリックの方がしっかりしています。ちょっと細かすぎるところもありますが、脇の甘いものよりは作業がしやすいです。このまま1日1本のペースをキープできれば、今週中に大まかな作業を終わらせることができるかもしれません。明日もがんばります。明日はジュリエットの論考をアタックしようと思います。

 

  トニー本に深くかかわった経験から分かったことですが、このガファレルという人物もポステルと同様に、キリスト教カバラルネサンス・プラトン主義、そして古代神学だけではなく、年代学やルネサンス期に発達したビザールな旧約聖書学の文脈から理解しないといけないのだと思います。

 

この最後にあげた思潮は、旧約聖書にある記述とギリシア・ローマ以前の人類の古代史をつなごうとした一連の試みが生んだもので、ルネサンス期に大きな展開を迎えました。僕自身も、まだどういう研究があるのか手探りの状態ですが、先行研究をマッピングするコーナーをBH内にいつかつくりたいと思っています。しかし、トニー自身もこの分野に名前をつけていないのですよね。> とりあえず、トニーのあげる文献からリスト・アップしてみました。ここでも、小澤君の活躍が光ります。

 

  よくインテレクチュアル・ヒストリー(知の歴史)と思想史の違いを聞かれますが、たとえばこの話題はインテレクチュアル・ヒストリーならではのもので、思想史ということばでは語れないものだと思います。旧約聖書で語られる事蹟と各国の先史を結びつけようとする試みは、あきらかに知的な営為ですが、

れは思想と呼べるものだと思いますか?

 

2014. 3. 4

  出発前の慌ただしさのなかで、送ってもらった写真をアップして家を出ました。パリについてからは国立図書館に近い7大学に直行し、食事のあとにジョナタンの授業枠で20くらいの学生たちの前で授業をしました。大半は歴史学科に所属している3年生のようですが、科学史医学史の知識があるわけではありません。それでも、ルネサンスの人文主義古代神学の話など、いろいろ興味を持てたようで、たくさんの質問をうけました。

 

 

2011. 12. 14

  AKE 君がポストしていたミーニュ版 Patrologia Latina の電子テクストのリストを見ていて、Patrologia Graeca はどうなっているのか?と思って検索をかけたら、偶然にずっと前から欲しいと思っていたギリシア教父のひとりキルスのテオドレトスによる著作『ギリシア病の治療』のラテン語訳(パリ、1519年) を見つけました。この翻訳の成立には、あのピコもからんでいるのです!この著作じたいは基本的に、ギリシア人の学問はキリスト教徒から拝借したものであるという教父アレクサンドリアのクレメンスの主張をひきついでいて、ギリシア学に対するキリスト教の優越性を主張する考え方の歴史をみるうえで重要です。とくに個人的には、ルネサンス期にはやった古代神学のアイデアへのインパクトに関心があります。フェルネルが使っているのはもちろんですが、もっと広くに読まれていたはずだと思っています。パラケルススが読んでいたなんてことが証明できれば面白いのですが、それは夢想の領域です。でも、やっぱりくっちゃね!

 

 

2011. 4. 1

  おお!ひじょうに素晴らしい知らせが入ってきました。BH アデプトクニ君の入魂論文「スカリゲルにおける創造、三位一体、そして古代神学 Kuni Sakamoto, “Creation, Trinity and prisca theologia in Julius Caesar Scaliger” が、ついに世界的に名高い、あの『ウォーバーグ研究所紀要Journal of the Warburg and Courtauld Institutes, 73 (2010), pp. 195-207 に掲載されたようです。これは日本始まって以来のニュースです。ぶっ飛びです!

 

 

2008. 3. 30

  どなたか、『フィレンツェと1439年の公会議』 Firenze e il concilio del 1439, Firenze, Olschki, 1994 という2巻組論集の第1 3-26 頁に入っている Cesare Vasoli による古代神学に関する論文「宗教的な平和から「古代神学」へ“Dalla pace religiosa alla ‘prisca theologia’” のコピーをとれる人はいないでしょうか?PDF でも構いません。お助け下さい!> 古代神学についてのコーナーを開設しました。> アダム君が取ってくれるということですが …

 

 

2007. 10. 17

  一昨日からソワソワと興奮して落着きがないのは、何だかとんでもない作品をものにしてしまったのでは?という予感がするからです。寝ても覚めても、リプシウス論文のことばかり考えています。>昨夜、早速のところ原稿を読んでもらったクニ君から感想を聞いて、予感が確信に近くなった気がします。う〜らら。> クニ君のブログに的確な評が出ていますね。ちなみに英題は以下のようにストレートな翻訳になります:

 

            リプシウスにおける世界霊魂:ローマ宇宙神学とルネサンス「古代神学」のはざまで

            Lipsius on the World-Soul between Roman Cosmic Theology and Renaissance Prisca Theologia

 

 

2007. 10. 16

   ああ、頭の切り替えをしないといけません!すでに午後1時となってしまいました。>どうも落ち着かないので、あきらめて気分転換のために溜まっている雑用を片づけることにし、まずは図書館に幾つか本の注文を出して来ました。閉棚式なのでタイムラグがありますが、明日の朝には届くそうです。夕方には、リプシウス論文のイントロを書いてみました。一応これで、初校はほぼ完成となりました。今回は、クニ君にいろいろマテリアルを助けてもらったので、スペシャル・サンクスが入っています。>題名をさらに変えました。どうでしょうか?

 

            リプシウスにおける世界霊魂:ローマ宇宙神学とルネサンス「古代神学」のはざまで

            L’âme du monde chez Juste Lipse entre théologie cosmique romaine et prisca theologia renaissante

 

 

2007. 10. 15

  昨日からの流れで考えたのですが、リプシウス論文の副題というかタイトルの後半で、古代ギリシアのストアとルネサンス期の古代神学の対比だけではなく、ローマの宇宙神学を加えて、「リプシウスにおける世界霊魂 :初期ストア、ローマ宇宙神学、ルネサンス古代神学のはざまで“L’âme du monde chez Juste Lipse entre ancien stoïcisme, théologie cosmique romaine et prisca theologia renaissante” では冗長すぎるでしょうか?

 

   キケロセネカなど古代ローマの著作家の多くは、のことについては主に自然学的な著作の中で議論したようです。で、そういう著作に大きく依拠して展開されるルネサンス期の自然学的な議論には、当然のようにローマの宇宙論的神学の影響が現れます。そのような議論を受け入れやすくする基盤が、ルネサンス期に流行した古代神学という概念です。古代神学については邦訳もあるので、そちらを見るのが一番でしょうが、簡単にいえば、モーゼヘルメスプラトンも教えていることは基本的には皆一緒という考え方です。リプシウス論文では、その辺りの議論をしている訳です。

 

 

2007. 10. 4

  リプシウスの読みを続行しています。日記が非常に淡白になっていますが、もう少しご容赦ください。今日は、第2書が終わりました。明日は、第3書に入りたいと思います。基本的な構成は以下のようになると思います。

           

Lipsius on the World-Soul between Ancient Stoicism and Prisca Theologia リプシウスにおける世界霊魂:古代ストア主義と古代神学のはざまで

              1. Introduction  イントロ

              2. Dieu, le feu artiste et l’âme du monde  神、形成的な火、そして世界霊魂

              3. L’âme du monde et le macrocosme  世界霊魂とマクロコスモス

              4. L’âme du monde et le microsome 世界霊魂とミクロコスモス

              5. Conclusions 結論

 

 

2007. 4. 25

  ゴオリーでもツヴィンガーでもないことは、これでほぼ確信が持てました。ヒポクラテスの『養生論』に特別な関心を持つ者は、ルネサンス期の場合、医者であり古代神学を信じる者でなくてはいけません。古代神学を信じる人間は基本的にプラトン主義者です。つまり、プラトン主義の医者でなくてはならないのです。まさに、ゲマセヴェリヌスはそういう人物であった訳ですが、カルダーノとの接点は何なのでしょうか?やはり実際に読んでヒポクラテスの位置づけに目を開かされたということなのでしょうか?何だか、これだ!という証拠が見つかるまではシックリきません。

 

  古代賢者の殿堂におけるヒポクラテの位置づけというのは、確かなものだった訳ではありません。ルネサンス人は基本的にガレノスの紹介するヒポクラテス像をそのまま受け入れていた訳ですが、ガレノスの解釈とは離れたところでヒポクラテスを見ようという動きは16世紀後半になってから成長し始めたといわれています。ルネサンス期におけるヒポクラテス像について先駆的な論文を書いたヴィヴィアンは、その契機は分らないとしていましたが、ナンシーさんの研究でヒポクラテス見直し運動の契機を与えたのはカルダーノであろうということが明らかにされました。その見直し運動のなかでは、古代賢者の一人として殿堂入りさせることが一つの道なのですが、それをさらに一歩進めてヘルメスモーゼと同じ高みにまで持っていこうとしたのが、ゲマでありセヴェリヌスなのです。つまり、ヒポクラテスは世界の創造霊魂の起源を知っていた数少ない古代賢者であり、それをヘルメスの『ヘルメス文書』やモーゼの『創世記』と同じくらい謎めいた書物に書き残したということなのです。その書物というのが、『養生論』ということになります。この点については、既にカルダーノが『養生論』を説明する段階で1564に述べていることなのです。ガレノスが偽作の疑いをかけたこともあり、『養生論』は軽視されがちだったのですが、このカルダーノの解釈が『養生論』の印象を方向転換させる契機を与えたと考えることが出来るでしょう。

 

 

2007. 2. 18

  朝から作業に集中して午後3時過ぎには、どうやら1が出来上がりました。やった!最終的には、それなりに納得の行くものとなりました。かなりひっ迫した状況下での作業でしたが、それなりのものが作り出せるところが、自分の底力なのかな?と変な感慨を持っています。今回は、辛かったです。もっと早く始めればよかったと後悔するも、先に立たず、ですね。それから、タイトルを少し変更したいと思います。ずばり、「フェルネル、カルダーノ、ゲマにおけるヒポクラテスの新プラトン主義的解釈と古代神学Prisca Theologia and Neoplatonic Reading of Hippocrates in Fernel, Cardano and Gemma” です。> 早速にも、アダム君に読んでもらいましたが、なかなか評判が良いようです。少し安心しました。

 

 

2006. 1. 3

  ここのところすっかり、ゲマの読みは冬休みに入ってしまっているのですが、文体の難しさについて新ボスと休み前に話したところ、マニエリスムだと言われました。そうです、芸術の分野同様に、ラテン語の文体もこの時期にはマニエリスムと称するに値する超絶技巧(何だかエレキ・ギターとかのテクニックみたいですが、芸術の世界でも、この用語を邦訳語として使うそうです)を施したものが出回ったようです。う〜む。>それでも、夕方から気合を入れ直して、再びアタックしました。第5章の理解も、だんだん形になってきました。ここが今回の論文のメインとなる部分ですので、慎重に読み進めています。議論の大筋は、驚異の発生の原因を四つの原因(目的、質料、作用、形相)の順に説明していくのですが、作用と形相因のところで、精気とその生得温熱の理論が宇宙論的なスケールで展開されます。星辰の熱が生得温熱と同一視されるというフェルネル式の議論展開となっていて、フェルネルガレノスをプラトン主義的な解釈で歪めて用いますが、ゲマヒポクラテスでそれを行おうとします。従って、今回の論文は、新プラトン主義古代神学ヒポクラテスの絡みが縦糸となります。ゲマのすごいところは、自然の驚異の発生を人体の発生学と絡めて説明し、それを宇宙人間社会にまで適用する点です。

 

 

2004. 8. 11

  イェイツの言うヘルメス主義が歴史学として抱える不味い点は幾らでもあるのですが、こと『ヘルメス文書』を翻訳したりしたことから『ブルーノとヘルメス主義伝統』の筆頭で扱われるフィチーノに関して言うと、彼にとって一番偉い古代神学者はヘルメスではなくゾロアスターです。その後がオルフェウスで、ヘルメスは3番目にしか過ぎません。ですから、ヘルメス主義という前に、ゾロアスター主義とでも言わなければいけませんが、ここにも歴史のアヤがあります。彼にとってのゾロアスターは、古代ペルシアのゾロアスター教とは直接関係なく、新プラトン主義の影響下に成立した『カルデア人の神託』の作者です。ゾロアスターと誤って同一視されたことから、このネジレ現象は生まれています。とにかく、フィチーノが起源となる思潮をフィチーノ主義といわないで、彼にとって一番大事な訳でもない3番目を用いてヘルメス主義と呼ぶことの無意味さが分かるでしょうか?

 

 

 

つれづれ日記