ルネサンス・バロックのブックガイド
ルネサンス・バロックの知のコスモスを描いた邦語本の数々を
一般読者に紹介するブックガイドを工作舎から出版します!
以下は、記事の見本です。
アタナシウス・キルヒャー
『普遍音樂:調和と不調和の大いなる術』
菊池賞訳(工作舎、二〇一三年)
宗教改革の嵐が吹きあれる一六世紀のヨーロッパ。カトリック勢の巻き返しをはかるために設立されたイエズス会は、アフリカやアメリカ大陸、インド、中国、そして日本へと宣教師を派遣する。世界各地にわたったイエズス会士たちは、自分たちの活動と派遣先で見聞した異民族の文化や風習について、おびただしい数の報告書をヨーロッパに送った。
イエズス会によって設立された諸学院の総本山コレッジョ・ロマーノで活躍したアタナシウス・キルヒャー(Athanasius Kircher, 1602-1680)は、こうして多様な事物について世界中からよせられた情報を総動員して、百科全書的な著作群を世に送りだした。なかでも、『普遍音楽』 Musurgia universalis は、音楽についてのあらゆる知見を網羅した書物として、一〇巻組のラテン語初版が一六五〇年にローマで出版される。邦訳版は六二年に六巻組に再構成されたドイツ語抄訳をもとにしているが、余談や脱線の多い、まさにバロック的なキルヒャーの文章は、ストレートな世俗語訳で読んだ方が現代人には馴染みやすいだろう。また巻末にふされた詳細な索引と文献表はとても有益だ。
『普遍音楽』の第一巻は、意外にも「解剖学」と題され、音というものの定義から音を発する物体、そして生物にみる音を発する器官と受けとる器官、それらの楽器との比較、諸生物のつくりだす音について議論している。驚くことに、カエルやコオロギといった良く知られた例だけではなく、ナマケモノの「不思議な声」を楽譜つきで解説してもいる。
つづく第二巻は、音楽についての古代ヘブライ人やギリシア人の記述を分析し、第三巻ではリュートやオルガンといった楽器を描写する。そして第四巻では新旧の音楽、つまり古代人の音楽とキルヒャーの時代の音楽を比較している。
「魔術」と題された第五巻は、音楽のもつ驚異的な作用について大きな紙幅がさかれている。この部分から読者は本書の核心へと入っていく。音楽によって狂乱に陥ったデンマーク王、有名なハーメルンの笛吹き、機械仕掛けの音響人形など興味はつきない。さらに「類比」をテーマにした第六巻では、音楽と宇宙の照応についての壮大な哲学が開陳される。世界は巨大なオルガンであり、天地を創造した唯一神は偉大なオルガン奏者であるという。そして議論は天上と地上のシンフォニー、つまりムジカ・ムンダーナ(世界音楽)へと飛翔して、魅惑的な本書は閉じられることになる。(ヒロ・ヒライ)
【関連書】
* J・ケプラー 『宇宙の調和』
(工作舎)
* 山田俊弘 『ジオコスモスの変容』 (勁草書房)
* J・ドゴウィン 『星界の音楽』 (工作舎)
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例:アタナシウス・キルヒャー(Athanasius
Kircher, 1602-1680)
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例: A・グラフトン 山田俊弘
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例:×
セネカ → 〇 古代ローマの哲学者セネカ
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ヴンダーカマー → 〇 近代的な博物館の前身であるヴンダーカマー