ギリシアの錬金術の系譜

 

 

 


近年で最も信用できる研究 Jean Letrouit, "Chronologie des alchimistes grecs", in D.Kahn et S.Matton (eds.), Alchimie : art, histoire et mythes, Paris, 1995, pp. 11-93 から。 人名はソース文献が、フランス語なので、大半はそのまま出してあります。ギリシア化させていませんのでご注意を!
 

紀元後3世紀

 

単純なレシピから次第にゾシモスの「ヴィジョン」(幻視)までのギリシア錬金術の発生期です

 

アフリカ人ジュール  Jule Africain

レシピ作家、パレスティナ出身のギリシア化したユダヤ人。アレクサンドル皇帝(222-235)下に活動。240年以後没。

 

キメス  Chymes

多くのことは知られていません。

 

偽デモクリトス  ps.-Demcritos

クロード皇帝(42-54)以後。ゾシモスより少し以前。

 

ユダヤ人マリア  Marie la juive

偽デモクリトスの後、ゾシモスの前。ギリシア化したユダヤ人

 

テオフィロス  Theophilos

多くのことは知られていません。ギリシア化したユダヤ人

 

ピビキオス  Pibichios

多くのことは知られていません。ギリシア化したエジプトのユダヤ人

 

アガトデモン  Agathodemon

ゾシモスが始めて言及。多くのことは知られていません。

 

アポロニウス  Apollonius

ゾシモスが始めて言及。多くのことは知られていません。

 

ヘルメス  Hermes 

伝説の人物と同名。有名なヘルメス文書とは直接関係ありません。

 

ゾシモス   Zosimos

マニ教への言及があることから 268-278頃と推定されます。実質的に著作がしっかり残ってる最古で最も有名な人物です

 

 

4世紀

 

 

ペラゲオス  Pelageos

多くのことは知られていません

 

シネジウス  Synesius

ゾシモスに知られていない人物。391年より前。年代的にはゾシモスの次にくる重要人物です。

 

ペタシウス  Petasius

オリンポドロスが最初に言及。偽デモクリトスの註解。シネジウスと同時期の人

 

ホロス  Horos

オリンポドロスが最初に言及

 

オリンポドロス  Olynpodoros

キリスト教徒。歴史家オリンポドロス(5世紀)や新プラトン主義者オリンポドロス(6世紀)とは同一人物ではありません。

 

 

5-6世紀

 

 

ヨハネ イストメオス  Jean Isthmeos

500年頃の活動。多くのことは知られていません

 

ジュリアナ   Juliana ?

コンスタンティノープルで没。偽作の疑いが強い

 

ユスティニオス1世?  Justinien I ?

(在位 527-565)。二つの著作があてられていますが、おそらく偽作。

 

 

 

7-8世紀

 

 

 

ヘラクレス皇帝  Heraclius

(在位 610-641)。3つの著作があてられています。

 

イシス  Isis

ステファノスと「キリスト教徒」が言及しているだけです。

 

ステファノス  Stephanos

最近新たな研究が発表されました。 重要人物です。

 

偽ヘリオドロス  ps.-Heliodoros
偽テオフラスト  ps.-Theophrastos
偽ヒエロテオス  ps.-Hierotheos

 

錬金術詩がそれぞれの名で保存されています。

偽クレオパトラ  ps.-Cleopatra

2つの著作があてられています

 

パピュス  Pappus

「哲学者」パピュスには、現存する『神聖なる技について』があてら れています。キリスト教徒。ステファノスの註解もしたとされます。

 

偽モーゼ  ps.-Moise

もともと旧約聖書で有名な「モーゼ」の名の下に色々な偽作が流布していたらしいのですが、上記パピュスによって言及されるまで、確証のある者はいません。従がって、パピュスとほぼ同時代か少し後。

 

「キリスト教徒」  Chretien

アラビア人による征服より以降であろうと推測されます

 

 

 

8-9世紀

 

 

 

哲学者   Pilosophe anepigraphe I

上記「キリスト教徒」に言及していることからその後になります

 

偽オスタネス  ps.-Ostanes

オスタネスの名は、偽デモクリトスの伝説と共に登場しますが、次に登場する philosophe anepigraphe II に紹介されてしることから、そのスグ前ではと推測されています

 

哲学者   Philosophe anepigraphe II

始めてヘルメスを錬金術の創始者とする。キリスト教徒

 

 

 

9-10世紀

 

 

編纂家テオドロス  Theodore le compilateur

このテオドロス以降、アラビア語の用語が錬金術文献に入ってくるようになります。

 

 

11世紀

 

 

「鍵師」  Cerullaire

(?-1059)。この辺りからはっきりした年代が特定可能

 

プセルス  Psellus

1018-1098?)。1045年頃書かれた『「鍵師」の送るクリソペアについての手紙』の著者です。

 

 

3世紀

 

 

ニケフォオス ブレミデス  Nicephoros Blemmydes

1197-1272)。

 

 

 

14-15世紀

 

 

コスマス  Cosmas

あまり多くのことは知られていません。

 

 


ギリシア錬金術に関するいくつかの基本文献

 
M. Berthelot, Les origines de l’alchimie, Paris, 1885. 2nd ed. 1938.
これは和訳があるらしいのですが未見です。
 
--- Collection des anciens alchimistes grecs, Paris, 1888-1889.
 
--- Introduction à l’étude de la chimie des Anciens et du Moyen Age, Paris, 1889. 2nd ed. 1938.
 
--- L’alchimie au Moyen Age, 3 vols. Paris, 1893. 2nd ed. 1967
 
E. O. von Lippmann, Abhandlungen und Vortraege zur Geschichte der Naturwissenschaften, 2 vols. Leipzig, 1906.
 
--- Entstehung und Ausbreitung der Alchemie, vol. 1, Berlin, 1919.
 
A. J. Hopkins, Alchemy : Child of Greek Philosophy, New York, 1934.

 

F. S. Taylor, "A Ssurvey of Greek Alchemy", Journal of Hellenic Studies, 50 (1930), pp. 109-139.
 
---  "Origins of Greek Alchemy", Ambix, 1 (1937-1938), pp. 30-47.
 
--- The Alchemists : Founders of Modern Chemistry, New York, 1949.
『錬金術師』 (人文書院、1978).
 
E. J. Holmyard, Alchemy, (orig. ed. 1957), 2nd ed. Harmondsworth (Middlesex), Penguin, 1968. /
『錬金術の歴史』(朝倉店、1996)
 
R. P. Multhauf, The Origins of Chemistry, London, Oldbourne, 1966.

J. Lindsay, The Origins of Alchemy in Graeco-Roman Egypt, London, 1970.
 
R. Halleux (ed.), Les alchimistes grecs I- Papyrus de Leyde, Papyrus de Stockholm, Paris, Belles Lettres, 1981.
 
J. Harshbell, "Democritus and the Beginnings of Greek Alchemy", Ambix, 34 (1987), pp. 5-20.
 
M. Papathanassiou, "Stephanus of Alexandria : Pharmaceutical Notions and Cosmology in his Alchemical Work", Ambix, 37 (1990), pp. 121-133.
 
P. Kingsley, "From Pythagoras to the Turba Philosophorum : Egypt and Pythagorean Tradition", Journal of the Warburg and Courtauld Institutes, 57 (1994), pp. 1-13.

Zosime de Panopolis, Memoires authentiques, ed. by Michele Mertens (Les alchimistes grecs, IV-1), Paris, Belles Lettres, 1995.
 
Jean Letrouit, "Chronologie des alchimistes grecs", in D.Kahn et S.Matton (eds.), Alchimie : art, histoire et mythes, Paris, 1995, pp. 11-93.

Cristiana Viano, "Olympodore l'alchimiste et les presocratiques : une doxographie de l'unite", in D.Kahn et S.Matton (eds.), Alchimie : art, histoire et mythes, Paris, 1995, pp. 95-150.

パリの Belles Lettres 書店から出されている Les alchimistes grecs シリーズは、待望の新版のギリシア錬金術文献の校訂本で、始まってはや18年が経ちますが、歩みが遅くまだ2冊しか出されていません。一番手取り早く全体像をつかむには、和訳されている Taylor, 1949 Holmyard, 1957 が在りますが、少し古すぎるので、それよりも Linsay (1970) をお薦めします。


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