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その9

 

 『パラケルスス-人と風評、アイデアとその変容』

 

O. P. Grell (ed.),

Paracelsus : The Man and his Reputation, his Ideas and their Transformation.

[Studies in the History of Christian Thought, No. 85]

Brill, Leiden, 1998.

ISBN 90-04-11177-8  Hard cover,  356pp. Price, 206.5 NLG = 122 $

 

   デンマークのパラケルスス主義者ペトルス・セヴェリヌス研究の O.P.Grell 氏によりグラスゴー大学で19939月に開かれたシンポジウムからの論集。目玉はやはり最近のパラケルススおよびパラケルスス主義の研究の最前線が全て英語で紹介されている点で、ポスト・ディーバス時代のスカラーシップを探る上で手っ取り早いイントロダクションとしてもってこいの論集。近年のドイツの研究者勢の著作のダイジェスト版としての価値も大。主な内容は以下の通り。

 

O.P.Grell, "Introduction : The Enigma of Paracelsus." pp. 1-18.
 
Stephen Pumfrey, "The Spagyric Art : Or, the Impossible Work of Separationg Pure from Impure Paracelsianisme : A Historiographical Analysis."pp. 21-51.
パラケルスス文書における真贋を見分ける難しさについて歴史的にはどう取り扱われてきたかが説明されています。
 
Andrew Cunningham, "Paracelsus Fat and Thin : Thought on Reputations and Realities."pp. 53-77.
 
Dietlinde Golz, "Paracelsus as a Guiding Model - Historians and their Object." pp. 79-100.
 
Herbert Breger,"Nature and Character." pp. 101-115.
 
Hugh Trevor-Roper, "Paracelsianism Made Political, 1600-1650." pp. 119-133.
1985
年作の論文 "Paracelsianism Movement."で有名な科学史家というよりは本当の意味での「歴史家」の論文。いろいろソースの取り扱いや検証性などの面で批判がされ出している彼の手法ですが、語り口の鮮やかさは、感動的な域にまで達しています。
 
Bruce T.Moran, "Medecine, Alchemy and the Control of Language : Andreas Libavius versus the Neoparacelsians." pp. 135-149.
ヘッセン・カッセルのモーリス(モリッツ)の宮廷の錬金術的活動の研究から現在は近代化学の建設者とも一部では考えられている「キミスト」リバヴィウスへと研究を発展させているモーラン氏の近作です。彼のリバヴィウスについてのもう一つの論文と合わせて読まれるべきです。
 
Carlos Gilly, ""Theophrastica sancta"- Paracelsianism as a Religion in Conflict with the Established Churches." pp. 151-185.
日本では、と言うか、ドイツ語圏以外ではまだまだ名の知られていないギリー氏。薔薇十字運動の研究の現在の第一人者です。イェーツの研究の再考をせまる力作を次々と世に送り出しています。しかし、全ての著作がドイツ語だったので世界向けにはこれが彼の世界の窓となる論文です。この論集の目玉であり、マスト・アイテム。パラケルススの神学的著作と薔薇十字運動の関係の真相について迫る力作です。まずイェーツの『薔薇十字の覚醒』を読んでから読むことをお勧めします。
 
Hartmut Rudolph, "Hohenheim's Anthropology in the Light of his Writings on the Eucharist." pp. 187-206.
パーゲルの線でパラケルススにおける新プラトン主義の影響を特に神学的著作について追っているロドルフ氏。彼の著作も英語のものはおそらくこれが始めてです。
 
Ute Gause, "On Paracelsus's Epistemology in his Early Theological Writings and in his Astronomia Magna." pp.  207-221.
1993
年にパラケルススの初期の神学的についての研究についての著作を出しているガウス氏。ここでは、そのイントロ的ものとして読むのが良いと思います。
 
A. G. Debus, "Paracelsianism and the Diffusion of the Chemical Philosophy in Early Modern Europe." pp. 225-244.
その巨大な業績で知られるディーバス氏。91年の作 French Paracelsians 以降は主にスペイン・ポルトガルにおけるパラケルスス主義の影響について研究を続けていましたが、これはその業績全体の総決算と呼べる論文でしょう。
 
Ole Peter Grell, "The Acceptable Face of Paracelsianism : The Legacy of Idea Medicinae and the Introduction of Paraclesianism into Early Modern Denmark."  pp. 245-267.
ペトルス・セヴェリヌスの影響を探るグレル氏。その論調は真っ向から J.R.Shackelford 氏と対立しているので、その点に留意しつつ、その両者の研究を比較しながら読まれていくべき論文です。

J. R. R. Christie, "The Paraclesian Body." pp. 269-291.
パラケルススの著作における corpus というタームについての研究です。ここから、彼の用法がかなり伝統的モノとは時にかけ離れていたことが分ります。僕の研究によれば、彼の materia という用語も時に普通使われていたものとは全く違う意味で使われていることが分っています。

Francis McKee, "The Paracelsian Kitchen." pp. 293-308.
パラケルススの著作およびそのフォロワーの著作における消化器官の理論について。17世紀の生理学に興味の在る人は一見の価値在りです。
 
Heinz Schott, ""Invisible Diseases" - Imagination and Magnetism : Paracelsus and the Conseauences." pp. 309-321.
パラケルススとそのフォロワーの病因論における イマジナシオンとマグネティスムについての研究。
 
Bibliography, pp. 323- 
収容された論文で言及されている文献リスト。これは便利。
 
Index, pp.343-

 

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